4500階は列車の世階

地平線の果てまで、どこまでも線路が続いている。広大な平原を進む、巨大な列車は、内部にレストランや宿泊施設・カジノなども完備しており、さながら豪華客船か高級ホテルといった感じである。


もう数ヶ月になるだろうか。この世階に来てからというもの、私はずっと列車に乗りっぱなしである。車窓の外に見える光景は、生命の気配のない砂漠、高層ビルの並ぶ都市、広大な大海原、と様々だったが、さすがに飽きてきた。


この世階に到着した時、最初私は、駅の改札口にいた。そこから、列車を乗り継ぎ、別の階層に続く箱船エレベーターがあるというセントラルステーションという駅を目指し、旅を続けている。


高度な文明を持つ世階は、いくつか見てきたが、これほど巨大な鉄道網を持つ世階は、初めてだ。私の故郷の世階にも鉄道はあったのだが、小さな階層だったゆえ、1日もあれば世階全体を1周できてしまうようなものだったから、スケールの違いがよく分かる。鉄道という技術だけが極端に発達しているとは、階層世界の文明像は、やはり興味深い。


車窓から顔を出すと、遥か彼方に巨大な都市が見える。あれこそが、セントラルステーション。鉄道網の中心に位置する駅であり、ほかの階との交流の窓口にもなっている。この世階を覆う無数の線路は、あそこへと集結し、数多の路線と接続しているのだ。


どれほど歳を重ねても、新しい場所に行くのは、ワクワクするものだ。旅の終わりのその日まで、初めて箱船エレベーターに乗ったあの日の想いを忘れないでいたい。


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