2929階は筋肉の世階

ダンベル、ベンチブレス、ランニングマシン……多種多様な運動器具に囲まれた、たくましい肉体を持つ男たち。


「よーし、次は腕立て伏せ200回やってくゾ~」

兄貴の掛け声と共に、プロテインを飲み終えた私は、次なるトレーニングメニューに取り掛かる。この世階に存在する食べ物は、どれも高濃度のプロテインを含んでいるので、食事管理を気にすることなく、トレーニングに打ちこめるのだ。


ここは、筋肉の世階。漢の中の漢たちが、日夜トレーニングに励み、己の肉体を鍛え上げている究極の楽園。当初はボディビルこそが至高とされるこの世階のルールにとまどった私だったが、兄貴達の厳しくも優しい指導の結果、今では身体を鍛える楽しさにすっかりハマッてしまった。気が付けば、私もここに住む兄貴達の仲間になっていたのだ。


「腹筋のトレーニングだ、いくゾ!」

さあ、次は腹筋だ。苦手なメニューだが、だからといって、手を抜くのは、男のプライドが許さない。


ここで暮らしていると、日々、自分の成長を実感できるのが、素晴らしい。己の肉体を苛め抜くことがこんなに楽しいなんて、どうしていままで気づかなかったのだろうか。男たちの汗の臭いと、むせかえるような熱気。むさ苦しいと感じていたハズのこの世階の雰囲気も、今ではとても心地良く感じられる。


箱船エレベーターに乗り、次なる世階に行きたい気持ちもあるが、しばらくは、この筋肉の世階で自分の肉体と向き合うとしよう。




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