2056階は休憩室の世階

2056階は、休憩室の世階。ここは、旅人のために作られた休息地点。他の世階に繋がる箱船エレベーターを除けば、ベッド、トイレ、シャワールームといった、最低限の設備があるだけの小さく殺風景な世階だ。


時おり機械音がかすかに聞こえるだけの寂しい場所だが、長旅を続けてきた私には、ちょうど良い静けさだ。なにせ、ここに来る1つ前の世階では、森の中を巨大な昆虫達から逃げ回っていたのだ。やはり、安全な世階が1番である。


ありがたいことに、ここには飲食用の自販機も用意されている。カップ麺と缶コーヒーを購入し、休息を取ることにした。


私はカバンから、一台の電子端末を取り出して、起動する。コイツを手に入れたのは、確か160階の電気街。長旅で随分とボロくなってしまったが、未だに現役だ。これを入手して以来、自分の訪れた世階のデータを電子的に記録できるようになり、重宝している。


私は、久々にこれまで訪れた世階のことを思い返す。思えば、色々な場所を旅してきたものだ。


草原の世階、砂漠の世階、海の世階、火山の世階……。高度な科学技術を持つ世階、魔法の発達した世階、原始的な文明しか存在しない世階、そもそも人類がいない世階……。


時には死にかけることもあったが、何だかんだで楽しい旅だった。もう、数百年は続けているだろうか。


最初は死ぬまでに旅を終えられるか心配したものだったが、訪れた世階の高度な魔法と科学技術のおかげで、寿命をかなり伸ばすことができた。このペースなら、生きているうちに、世界の真実を解明できるかもしれない。


旅の中で、謎だらけだったこの階層世界のことも少しずつ分かってきた。


階層世界は、女神様によって管理されていること。死んだ人間の魂は、他の世階に運ばれ、生まれ変わること。旅の果てにあるとされる世界の頂上、そこにたどり着いた旅人は女神様に願いを叶えてもらえるということ。


「女神様、いつか必ず貴女の元に行きます。それに、叶えてもらいたい願いはもう決めています……」


そんな風に独り言を呟きながら、私は改めて、この旅を成し遂げることを決意した。

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