『映画』
暑い。どうしてこうも毎日暑いのか。雨が降っても蒸し暑くなってやっぱり気持ち悪い。
「クーラー切らなくてよかったか……」
レンタルビデオ屋に行ってきたのだが、クーラーの電源を切って家を出たら、帰ってきたこの部屋はもう暑さに支配されていた。
俺まずクーラーをつけ次に扇風機をつけた。扇風機の前に座り買ってきた炭酸水を喉に流し込む。体中の熱が下がっていく感じ。
一息ついて借りてきたDVDのケースを開ける。手を伸ばしてレコーダーの電源をつけた。と、そこでドアをたたく音が聞こえた。
のっそり立ち上がり、玄関へ向かう。
「おー、入れ入れ」
ドアを開けると大学の友人である拓也が立っていた。
「おじゃましまーす。ってあれ、あんま冷えてないな」
「出かけてて今帰って来たばかりなんだ。ああ、テキトウなとこに座ってくれ」
俺は冷蔵庫から麦茶をだし、コップついでテーブルに置いた。
「さんきゅ」
「それで、どうしたんだよ急に」
「ああ、特に何かってわけじゃなかったんだけど。暑かったから。誰かといたいなって」
「寒かったらじゃないか?」
「そうかな?」
俺は寒かったら人恋しくなるけどな。むしろ暑かったら一人でいたくなるのだが。
拓也は麦茶を一口で飲み干してしまった。余程喉が渇いていたらしい。まあこの暑い中来たなら当然だ。
「昨日花火大会に行ってたんだ」
「そうなのか?」
花火大会か。しばらく行ってないな。
「って言っても、バイトでチケット売ってただけだけど。観覧席のさ」
「へえ、それはお疲れさまだ」
「ありがと。それでさ、販売が終わって、人が混まないうちに電車に乗ろうと思ったから花火はゆっくり見れてないんだけど。駅に向かう途中、歩きながら打ちあがる花火を見てたんだ。そしたら、空しくなった」
だから俺の家に来たのだと、拓也は言った。花火を見たら空しくなるというのは、分かる気がする。あの楽しい雰囲気と相まって、かけがえのない時間が終わっていくようなのが、どうにも寂しいのだ。
「俺はどこにもいかないよ」
「え?」
戸惑ったような表情をしている拓也をおいて続ける。
「時間は、今この瞬間は無くなっていくけれど、俺は無くならない。お前がまた誰かといたいと思ったら、また来ればいい。俺はここにいるから」
「うん、ありがとう……」
どうして俺に会いに来たのか、その本当の理由は分からなかったけれど、元気がないのは分かったから。寂しい表情を見たくなかったから。
「DVDを借りてきたんだ。一緒に見よう」
「何を見るの?」
「高校生が主役の、青春映画だ」
「また空しくなりそうだね」
拓也は困ったように笑った。俺はその顔を見て、少し安心した。
DVDをセットして再生ボタンを押す。
映像の中のこいつらは、もう何度も再生されていて時間は巻き戻っているけれど、俺たちの時間は戻らないから。だから今は俺も、拓也と一緒に居たいと、そう思う。
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