第5話 何だか思ったのと違う
帰り道すがら、町の風景を眺めた。天使の世界って、もっとなんだか、全体的に白い感じで、『ふわふわ』とか、『モクモク』とかそんな感じだと思っていたけれど、なんだか違う。いつもの悪魔の世界と、全く変わらない様に見える。
僕はいつも、悪魔世界でしていたように、夕食を買うためにコンビニへ寄った。そこに、なんだか気になる学生を見つけた。なぜ気になるんだろうと思いながら、ぼうっと見つめていると、彼は立ち読みしていた雑誌をするりとカバンの中に忍ばせて、僕の横を通り過ぎようとした。僕は思わず彼の腕をぎゅっと掴んで引き寄せると、「万引きすんな」と彼の耳元で囁いた。彼は僕を、蒼白の顔で見上げると、驚くほどの大きな声で叫びながら逃げ出した。
「おい、待てよ! あ、店員さん! そいつ、万引きした! 捕まえて!」
丁度、出口付近にいた男性店員に声を掛けると、彼は反射的に万引き犯へ向かって手を伸ばしたが、すぐに引っ込めてしまった。
万引き犯は、そのまま、丁度開いていた自動ドアを駆け抜け、夜の街へ消えていった。
「お、おい、何で捕まえないんだよ」
「お客様、落ち着いて下さい」
「なんで、僕が落ち着けなんて言われないといけないんだ、あんたこそ、もう少し慌てろよ。なんで、逃がしたんだ? それとも、グルか? あんたの友達なのか?」
「そんなことはありません、落ち着いてよく考えて見てください。彼も、きっと、したくてした訳じゃないんですよ、きっと、怖い目にあって、今頃、凄く反省していると思うんです。それを、更に追い詰めても、良い結果にはならないと思うんです。お客様や、私に刃物で切りつけてきたりとか……」
「だからって、許していいのか? 万引きは犯罪だろ? あんた、法の番人か? あんたが法律を変えていいのか?」
「まあまあ、落ち着いて……」
店員は急にニヤニヤし始めた。万引き犯に手をのばしたときには、慌てふためいていたくせに、急に大人を気取って余裕シャクシャクみたいな顔をしやがって、腹が立つったらこの上ない。
ふと、周りを見ると、他の客も店員と同じ様な顔つきで、ぼくのことを遠巻きに見ている。
「なんだお前ら! なんだ、この世界は!」
なんだか、自分だけがイタイみたいな扱いを受けるのが納得いかない。僕はそのまま何も買わずにコンビニを出た。腹が立って、なんともやりきれない気持ちを抱えて歩き出したところに、急に声を掛けられた。
「きみきみ、懐かしの香りがするのぉ、ちょっとお待ちなさいや」
振り返ると、白髪の老人が笑顔で立っていた。
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