第4話 いいこちゃん

 どの店にしようかなんて、なんて贅沢な悩み……なんて素敵な時間……いっそこのまま歩き続けていたい……。


「アッくん……今日は部長に怒られていたけれど、大丈夫だった?」


 これは現実か? なんと、可愛いなと思っていた、同期のみっちゃんから声をかけられ、食事に誘われた。僕にとっては初対面だけれど、向こうにとっては違うようだ。どういう理屈かはわからないけれど、とにかく、悪魔の世界ではこんな事はなかった。密かに好きだった、悪魔のなっちゃんはこの世界にはいないけれど、これはこれで良い展開……。


「あ? ああ、あんなの怒られたうちに入らないよ、てっきり殴られるもんだと思ったけれど、いや、あれじゃダメでしょ、やっぱり」


「だめ?」


 ん……なんだ、この違和感。みっちゃんの表情が急に曇った。なんか、不味いこと言ったかな?


「ダメでしょ? あれじゃ効果ないよ、僕が言うのもなんだけど、これでもかってほどにビビらせないとね。あんなんじゃ、言うだけ無駄、じゃなきゃ、逆効果だね!」


「アッくん……あんまり、そういうこと言わない方がいいよ……言われた方は傷つくだろうから……」


「は? う、うん、まあ」


「相手の気持ちをよく考えて話すといいよ。じゃあ、また明日ね……」


「あ、あれ? 食事は……」


 みっちゃんは帰って行った……なんか、うぜぇ。なんか、腹立つ……悪魔の世界のなっちゃんは、小悪魔的なところが好きだったのに……。僕に声をかけられても――『はぁ? 誰の許可を得て、私に話しかけてんの?』とか、『てめぇ、キモいんだよ! 見てんじゃねぇよ!』何て、照れ隠しも可愛かったのに……なんだろ? さっきのあれ……まるで、いいこちゃんなのかって感じ。


 そう、そうなんだけれど、天使だからなんだよね? 天使だから、良い子なんだ、わかってる、わかっててこの世界へ来たけれど、みっちゃんに関しては、こう……テイストが違うと言うか、スパイスが足らないと言うか……。


 なんとなく、釈然としない想いを抱えたまま、その日は帰途に着いた。




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