第3話 理想的な優しい世界

 会社に着いたが、遅刻してしまった。でも、天使は良い奴しかいないので、僕を悪く言う奴もいない。


「アッくんも、たまには遅刻する事もあるよね、気にするなよ、でも、私は一応部長だから、指導しないといけない立場なのでね、じゃあ、これからは気をつけてね……」


 天使の世界には会社もあったし、同僚もいた。ただ、全員が別人だ。部署も役職も同じ、でも、働いている人は違う人……どんな理屈なんだろう。


 そして、みんな優しい。これは、叱られたのだろうか……全くそんな気がしない。もし、これが悪魔の世界ならば――


「てめー! いい加減にしろ! 一体、何度遅刻すれば気が済むんだ? 俺は所詮は部長だがよ! 社長だったら、真っ先にお前をクビにしてやんよ!」


――これでも、優しい方だろう。ああ、ありがたい、天使の世界バンザイだ。


 ともかく、悪魔の世界と天使の世界はほとんど変わらないようだ、このゴーグルさえしていれば、不便もない。しかも、ゴーグルも着ぐるみも、着けている感覚もなければ、周りの天使にも見えていないようだ。そうなれば、違うところは、そこに住んでいるのが、天使なのか悪魔なのかという事だけだ。

 悪魔の世界では、一日中どやされ続けているけれど、天使の世界では、誰にも何も言われずに、たんたんと仕事が進み、あっという間に退社の時間になった。


「あ、あの……アッくん、今日、お食事でもいかがですか?」


「え! 僕と!? 今日初対面――なのかな? 違うんだよね? 多分……いやいや、気にしないで! どうしたの? 改まって……これまでご飯とか、一緒に行ったことあった?」


「あ……初めてなんですけど……今日……様子がおかしかったから、大丈夫かなって……」


 なんと、心配して、声をかけてくれたんだ、なんと優しい世界……やはり、ここは天使の世界なんだ。

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