町を望む

「去年の失敗は、食欲の秋を選択したことにある」

先週末、お酒を二缶空けたゆかりの口から吐き出されたその言葉に続く一連の支離滅裂な言動を要約すると、今年の秋は山に行く、だった。


そして今、山頂の休憩席で顔面からぐったりと突っ伏した彼女を私が介抱する羽目になった理由でもある。


生活のほぼ全てが自宅で完結しているゆかりの体力は皆無だ。

勢いよく山に挑んでみたものの、案の定途中で力尽きた。

しかし、帰ろうかという私の提案だけは頑なに固辞し、何度も休憩を挟みなあがらゆっくりと歩を進めていった。

標高はそんなに高くない場所だったけれど、山頂に着くころには空が紅葉色に染められていた。


山の冷たい空気を避けるよう、隣で伏せるゆかりに身体を寄せる。

「なんで無理したの?」

この問い掛けをするために、何分待っただろうか。

テーブルに顔をつけたまま首をこちらに向けてゆかりは答える。

「ここから見渡せるって、聞いたから」

「何を?」

そう答えてから私は辺りを見回した。


山頂には簡素な展望台がある。多分、100 円で何分か見れるってやつだ。

設置されている場所からすると、この町の全景くらいは見渡せそうだ。

「私と涼子の町、だから」

掠れた声でゆかりが呟いた。


そういえば、私が越してきてからそろそろ一ヶ月が経つ。

なし崩し的に一緒に住み始めたから、いつの間にか時間が過ぎていた。


最初の思い出になればいいなと思って。


ゆかりの小さな声がした。

それはきっと疲れのせいではなくて。

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