同じ香りを
『さんま食べよう』
先輩からこんな誘いが来た。
あまりにも唐突だったので、却って何も考えずに誘いに乗ってしまった。
駅で待ち合わせをしてから先輩の後をついていったのだが、どこか店に入るのかと思ったら、目的地は河川敷だった。
休日、昼過ぎの河川敷。
晴天の下、時折吹く風の涼しさが季節の境目を意識させる。
川縁に近い場所まで進んでいくと、先輩は鞄の中からレジャーシートを取り出して広げ始めた。
さらに、簡易グリルと二本入りの秋刀魚のパックを取り出す。
異様な光景ではあったが、まぁ、気にしてもしょうがない。
「直に入れたら匂い移りません?」
「あ」
とりえあず適当に投げてみた質問に先輩はわりと敏感に反応し、鞄の中を確かめたあと、表情を曇らせた。手遅れだったらしい。
「急にどうしたんですか?」
秋刀魚の焼ける匂いが漂い始めた頃、僕は尋ねた。
「んー」
しかし先輩は口を開かず黙ったままで、グリルに顔を近付けてじっと秋刀魚を見つめている。
ちりちりと皮の焦げる音がし始めた頃、先輩がゆっくりとこちらを向いた。
そして、
「夏に、何もなかったから」
と、一言だけ呟いた。
グリルの熱に当てられたのか、先輩の頬はほんのりと赤く染まっていた。
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