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君を眺める私

「うっわ、あっつ」


美術室に入ってくるなり、手うちわで風を作りながら先輩が愚痴を溢す。

「こんなとこ籠もってたら熱中症んなるよ。あんた、ただでさえスタミナないんだしさ」

「クーラー修理中なんですよ。扇風機で我慢してください」

そのおかげで今日は僕一人しか作業をしていない。

「窓開けちゃダメなの?」

「今は風入れたくないんで。今日風強いですし」


せちがらーいなどと呟きながら、先輩は僕の背後にやってくる。

キャンバスを覗き込もうと屈んだ彼女の髪先が、僕の頰をかすめる。

身体の放つ熱気とほのかな柑橘系の香りが僕の右半身を撫ぜていく。


「部活、いいんですか?先輩一応コーチですよね?」

「先生いるし平気ー」

とぼけた調子の答えだったが、先輩の顎先から汗が滴り落ちているのを見ると、どうやらそれなりに働いてきたらしい。


「今日もここで涼むつもりだったんだけどなぁ」

キャンバスから身を離しながら、溜息混じりの一言。

「残念でしたね」

僕はいつものように苦笑いしながら口を開く。


何度目かなんてもう数えていない、ありふれた日々の一幕だ。

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