その続きを

「ここんとこさぁ」

「ん、なに?」

橙の空気が浸透しつつある時間帯。

いつもの喫茶店。

愚痴を交えた雑談が途切れてからしばらく経って、美月はストローを齧りながら言葉を零し始めた。

「いやね、運命の出会い〜みたいなやつがさ、起きたりしないかなーって思ってんだけどさ」


他意のない発言なのだろうけど、少し、軋む音がする。

「どんな?」

だけど、私はいつもと同じトーンで返事をする。

「それがむずかしいんよー、ぜんっぜん想像できなくて」

うぅんと唸りながら、残り少ないカフェオレをストローでかき回している。

氷とガラスがキリキリと音を立てる。

普段なら気にもしないはずなのに、今はそれがとても耳障りで、苦しい。


「予想もしていなかった感じでさ、心を一気にときめかせる何かが始まってほしいなって思ってるんだけどねー」

「予想してないんじゃ想像なんて無理だねぇ」

「だよねー」

そして、二人してクスクスと笑い合う。


事あるごとに、彼女は日常の退屈さを訴えて未来への希望を話の種にする。

タイミングが合えば、私たちはこの喫茶店で落ち合って、こんな他愛のない会話を繰り返しているのだった。

彼女にとって、他愛のない話を。


「じゃ、また来週ね」

「うん」


駅前で互いに手を振って別れる。

遠ざかっていく彼女の後ろ姿を眺め、私は立ち尽くす。


私はもう、その「運命の出会い」のあとなんだよ。


言葉にしたことは、まだ一度もない。

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