第52話
終焉
すると、本当に月にまで届いたのか、月が割れている。真っ二つに、だよ。
大地が揺れている。僕はすぐに妻と子供たちのいる場所に駆け寄る。足元がふらついている。けれどしっかり、三人を抱え込む。
僕は必死に三人に言葉をかけているけれど、その言葉は僕の耳にさえ届かない。見上げると割れた月が近づいてくるのがわかる。大地の揺れは止まらない。けれど僕には、なんの音も聞こえていない。妻と子供たちは震えている。口を必死に動かしているのは、叫びをあげているからだと思う。僕にはただ、三人を抱き締めることしか出来ない。
大地の揺れは治まらない。僕は三人を抱き締めながら必死に辺りをうかがっている。神様の船は、ずっとそこにあるままだ。赤い光はもう見えない。月はさらに近づいてくる。空は薄暗く、太陽の光はほとんど届いていない。黒雲が空にいくつも浮かんでいる。
「これで終いじゃよ」
突然全てが真っ暗になった。僕は目を開けているのに、なにも見えない。三人を抱き締めている感触はある。けれどその姿は見えない。
「しばらくそのままでいるのじゃ。じきに元の世界に戻ることじゃろう」
神様の声だけが聞こえている。声を出そうとしても、僕の言葉は表には出ない。僕は子供たちの感触を確かめている。そしてじっと、静かにするしかないんだ。目を閉じ、無駄なことを考えるのはやめている。すると大地の揺れが気にならなくなってきた。真っ暗な中、真っ白な世界を、心で想像しているんだ。
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