第49話


   生き残り


 僕もその場でしゃがみ込み、じっくりと宇宙人の顔を眺めている。宇宙人の顔は、どれもそっくりなんだと感じている。昨日話をした宇宙人とまるで変わらない顔をしている。それはとても不思議なことだ。猿山の猿でさえ、よく見ればそれぞれが違う表情をしている。猿だけではない。大群のイワシだってそうだよ。家の壁を歩くヤモリにだってそれぞれの表情がある。顔の形だって違っている。けれど宇宙人は、全くの瓜二つだった。僕は近くに転がっている別の死体にも目を向ける。全くの同じ顔をしている。他の宇宙人にも目を向ける。やはり全くの同じ顔だ。

「いや・・・・ 違う。こいつだけ違っている!」

 僕の大きな声に、子供たちがビクッとする。

「ごめんよ。けれどこいつは危険だ。すぐに家に戻りなさい」

 僕の指示に二人は立ち上がっている。そして、僕も立ち上がり、急いで家の中を目指す。

 背後でなにかが動く気配がする。どうやら僕の判断は、遅すぎたようだ。もっと早く気がつくべきだった。今更ではあるけれど、後悔をしている。けれどこのまま諦めるわけにはいかない。僕だけではなく、子供たちの命がかかっているんだ。

 僕が気がついたのは、宇宙人の額の傷。宇宙人の確実な弱点は、額にあることはわかっていたはずだ。宇宙人だけではない。ほとんどの生命は、その核であるはずの心臓よりも、その行動を命令する脳を弱点としている。

 天使たちもそのことに気がついていたんだろう。跡形もなく姿を消されてしまった宇宙人は別として、死体を残している宇宙人の額にはどれも傷がついている。中に住んでいる母親も同時に殺していることだと思われる。

 けれどさっきの宇宙人にはそれがなかった。恐ろしいほどに綺麗な額をしていた。

「もっと急いで!」

 走る速度の遅い二人に、僕は少し苛立っている。早く隠れなければ、宇宙人に殺されてしまうと本気で考えている。背後からは、さっきからずっと得体のしれない気配を感じている。

「その心配はない。君たちに危害は加えない。私たちはもう、そんな力を残していない。というよりも、今では私たちではない。私には君たちを殺すことは出来ても、戦い抜くことは出来ない」

 心の中に響くその声は、僕の知っている宇宙人の声そのものだ。宇宙人はみんな、声もそっくりなようだ。

「その疑問は簡単に説明が出来る」

 話をする口調までそっくりだ。

「私たちは意志の疎通にも全て言葉を使わない。それはつまり、余計なことも全てが筒抜けだということなのだ。その証拠に私はあなたのことを知っている。死んでしまった彼との会話は全て私の心にも入っていたからだ。私にだけではない。全ての仲間に伝わっていた。そしてそれは、心だけの問題ではない。私たちは外見をも共有をするのだ。あり得ないことではあるが、私の鼻の穴が三つになったとしたなら、仲間の鼻の穴も三つになる」

「本当に?」

 僕はちょうど玄関のドアを開けている。子供たちを先に中に入れようとしていた。けれど二人とも、突然足を止め、振り返っていた。そして同時に口を開いた。

 宇宙人の声は僕にだけでなく、子供たちにも聞こえていたようだ。

「ねぇ、やって見せてよ!」

 子供たちはそこに生きている宇宙人がいることには少しも驚いていない。

「それは無理な相談だ。宇宙人は私一人なんだから」

「えぇー、そんなのヤダよ! なんでもいいからさ、なんかやって見せてよ! 宇宙人なんでしょ?」

 優人が駄々をこねている。優香も同じように目をキラキラさせて宇宙人を見つめている。

「そんなことよりまず、家の中に入ろう」

 僕は子供たちだけでなく、宇宙人も家の中に誘っている。どうするつもりなんだ? その後どうしようかなんて、なにも考えていないよ。

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