第40話


   ミカと僕


 地上には僕とミカだけしかいなかった。宇宙船の残骸や、宇宙人の死骸はそのままだったけれど、生きているのは僕とミカだけだった。

 僕はゆっくり、荒れ果てた地上を眺めた。そこはもう、僕の知る街ではなかった。崩れた建物も、その残骸すらない。地震によって死んだ人間の死体もなかった。悪魔や妖怪たちがいたという証拠も消えていた。あんなに大きな恐竜や、あんなに凶暴な怪獣もいないんだ。それどころか、そこにあったはずの川も山も、姿を消していた。広がる荒野、ひび割れた大地、そこにはもう、以前の面影は少しも残されていなかった。

「そんな哀しい顔をしないで下さい。その気持ちは、私も同じです。けれどわかって下さい。神様のやり方には疑問があります。それでもやっぱり本当に悪いのは、人間なのです。神様が与えて下さったこの星を、滅茶苦茶にしてしまったのですから」

「そんな人間を生み出したのは、神様だ・・・・」

「ですから神様は、責任をとるためにこの道を選んだのです」

 僕はまた、地上を眺めた。それにしても酷い有様だと思ったよ。ここではもう、人は生きていけない。人だけではなく、命ある者は、どんな微生物であっても生きてはいけないだろうと感じたよ。

「そうとも言い切れませんよ。この星にもまだ、不思議なことは残っているのです。人間が解明出来ていないことは山のようにありますが、神様でさえ解明出来ていないこともあるのです。特に闇夜は危険です。夜になる前に、早く家に帰りましょう」

「けれどこれじゃあどこに家があるのなんてわからない! 本当に無事なのか! 僕の家族はこんな状況で生きているといえるのか!」

 僕は涙を流し、大袈裟な身振りを交えて怒鳴った。

「神様は嘘をつきません。あなたはただ、信じていればいいのですよ」

 ミカは優しい口調でそういう。

「あなたの家までは私が案内をいたします。さぁ早く愛する家族と再会しましょう」

 ミカは一人で僕の前を歩き始めた。その先に僕の家があるのかと思うと、僕の足も自然に動き出す。ミカの後をついていくことに決めた。

 ミカの後ろ姿には、優しさが見て取れる。その大きな翼が、全てを包み込んでくれるかのようだった。その姿を見ていると、自然と口が開いてしまう。僕の疑問全てに答えてくれるかもしれないと思えてならない。

「ミカは僕の母なの? 僕が神様の息子って、どういう意味?」

「私は母ではありませんよ。あなたの母は、ちゃんと別にいますから。とても美しい方ですよ。あなたによく似ています」

「それって、僕のお母さんとは違うってこと?」

「そういうことになりますけれど・・・・ その話を聞きたいのですか?」

 ずっと前を向いて歩いていたミカが、振り返った。けれどその足は動かしたままだった。僕の家に向かって歩き続けていた。僕もその後を、続いていく。

「僕は真実を知りたい。僕が何者なのか、この世界の真実を知りたい」

「あなたは神様の子です。それは真実ですよ。とても簡単なことなのです。今のあなたは人間の子です。あなたが思うお父様とお母様は、人間であるあなたを産み、あなたを育てた両親です。神様は、あなたという存在を、その魂と呼ばれる部分を産み落とした父なのです。当然母も存在しています。その方は私たちの母でもあるのです。天使はみな、その方から生まれたのです。ですからあなたが私を母と間違えるのも、無理はありません」

「ミカと僕は姉弟? 僕の母は天使なの?」

 僕は思わず足を止めてしまった。けれどミカは、構わずに歩き進めていく。

「もうじき日が暮れます。手遅れになる前に急ぎましょう。あなたの家はもうすぐのはずです」

 僕は少し小走りにミカの後を追いかけた。

「それで僕の母は天使なの?」

 僕にはそのことが一番気になっていた。父が神で母が天使、僕って凄い! と無邪気に思っていたからだ。

 とそのとき、ドンッ! と正面のなにかにぶつかった。

「その話は後にいたしましょう。大変なことになりました」

 ミカが突然立ち止っていた。

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