第36話


   現状


 その世界は、言葉にしたくないほどに酷かった。想像することすら出来るはずもない。なぜなら僕は、現実を知らなかったんだから。こういう現実があることを知り、ショックを受けている。テレビや映画の世界とはまるで違っている。遠く離れて見る爆発風景とも違う。そこはまさに、体験しなければわからないリアルな惨劇の場だったんだ。

 世界の終りが、現実として目の前に広がっていた。僕はすぐに元の世界に戻りたいと願った。けれど、そうはならなかった。僕は何度も目を瞑ったよ。けれど目を開くとそこには、変わらない世界の終りが広がっていた。最悪だ。

 人間の最後の戦いは壮絶なものだったようだ。宇宙人たちも大勢死んでいた。宇宙船も数台、壊されていた。人間の死体はあちらこちらに転がっていた。幽霊の姿は見えない。悪魔や妖怪たちも死んで転がっていた。その中には天使の死体もいくつかあった。大きな羽が、ちぎれて落ちていた。恐竜や怪獣の死体も転がっていた。その他にも戦闘機が真っ二つに割れ、戦車やジェット飛行機なども転がっていたよ。傷を負い瀕死の宇宙人も倒れていた。あちらこちらで炎が舞い上がっていた。

 僕はとても怖く感じた。これが戦争の恐ろしさだと、身をもって感じたよ。目をそむけたくなったけれど、三百六十度その景色だ。目を瞑るほかない。そして僕は目を瞑り、元に戻りたいと願ったんだ。

「君たちの愚かさがわかったか?」

 頭の上になにかが乗っている感触があった。僕が目を開けると、そこには宇宙人がいた。その顔を見て、僕はホッとした。

「みんな死んでいた・・・・ 君の仲間も、大勢死んでいた」

「それはわかっている。けれどこれは、君たちが望んだものだ。私たちは望んで犠牲を出しているわけではない。生き残るために、この星を守るための犠牲なのだ」

 僕にはどうでもいい話のようにも思えた。誰かのために犠牲になるなんて、僕には考えられないからだ。愛する妻や子供たちのために、自らの命を犠牲にしたいとは考えたこともないよ。僕は、愛する妻と子供たちのために、最後まで生きていたいと考えている。家族みんなで生きていたいんだ。そのための犠牲なんて、必要がない。あってはならないものだと考えている。

「なかなか理想通りにはいかないのが現実なのだ。君は本当に気がついていないようだ。君はこの星の中で、一番に守られている存在なのだ。多くの悪魔や妖怪が命を落としたのは、君の犠牲になったからでもある。私たちとの戦いも、君が原因だといえなくもない」

 それの意味は想像がつく。それまではそんなバカなことはあり得ないと、まるで信じてもいなかったけれど、目の前で起こる現実に、そう信じるしかなくなってしまったんだ。天使がいうように、僕は神様の子なんだ。それは、人間を作り出したのが神様だからではない。そういう広い意味では人間全てが神様の子になる。僕は始め、天使の言葉をそうとらえていた。けれどそれは間違っていた。僕が神様の子だというのは、人間でいうならば、血のつながりがある、本物の親子関係だということだ。

「けれどそれは、君一人ではない。神の子は、他にも人間の中に紛れている。天使たちがそれを守っている」

「それで僕はどうなる? このままこの星の終りを待つ? それとも神様の助けを待つ?」

「それは私にはわからない。神がなにを考えているのか、私たちは神の行動を待っている」

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