第33話
変化
頭上に真っ赤な太陽が近づいてきた。氷が溶けていく様子が、目に見えていた。大地は一時水で溢れていたけれど、次第に元の姿に戻っていく。緑の森も復活をしていた。
元の世界とは形を少し変えていたけれど、そこは間違いなくこの星だった。どちらかというと、今に近いような気がする。古い図鑑で見る世界によく似ていたんだよ。
そこでは妖怪たちがメインとして暮らしていた。恐竜や怪獣も僅かに生き残っていたけれど、陰に隠れてひっそりと暮らしていた。おかげで妖怪はお残りを手に入れることが出来なくなっていた。けれどしっかり、自分たちの力で食料を手に入れていた。川で魚を釣ったり、森で木の実を採ったり、畑で野菜を作ったりしていた。
そして大地には様々な動物たちが姿を見せ始めていた。僕の知っている動物たちに似ている姿が多く見受けられた。妖怪たちはその動物を捕まえ、食べてもいた。家畜にもしていた。僕の知っている人間の暮らしによく似ている。
そこに突然、大きな船が現れた。ありえないほどに巨大な、まるで一つの島にような木製の船だった。空の彼方から、宇宙からやってきたんだ。それが神様の船だったようだ。
神様はその船から姿を現さなかった。その船の上で言葉だけを使って指示をしていた。まず妖怪たちを船に招き入れた。そこでこれからの説明を始めたんだ。神様がなにをするつもりでここに現れたのかをね。
神様の船は、見た目は木製ではあるけれど、現実に手を触れると、それはとても柔らかい素材で作られていた。僕にはゴムのように感じられたよ。妖怪たちの足が、グニュっと凹んでいたからね。その船に入る際には、透明な薄い膜をすり抜けなければならなかった。不思議な膜で、妖怪たちがすり抜けても破れたりすることはない。船はその全体がその膜で包みこまれていたようだった。
船の中の神様の姿は、僕が持っている人形にそっくりだった。全ての人間がイメージするままのいかにもって姿をしていた。
神様の話を、妖怪たちは素直に受け入れることはしなかった。無理な話だと、怒りを見せてもいた。けれど神様は諦めなかった。しつこい交渉を続け、ついには妖怪たちを納得させていた。妖怪たちはいくつもの条件をつけようとしていたけれど、神様が飲んだ条件は一つだけだった。それは、妖怪たちの生活を邪魔しないというもだった。神様はそれを受け入れたけれど、こんなことを言い残していた。それを人間が受け入れるかどうかは、あなたたち次第だと。神様は交渉上手で、狡賢いんだよ。
そして神様は人間をこの世に放った。男女二人だけではない。数百人はいたように思えるよ。肌の色も髪の色も様々だった。まるで養殖したうなぎの稚魚を川に放流しているかのようだったよ。
それからすぐに空の中に天使を放った。天使たちの住処は、流れる雲を利用して造られていた。人間や他の生き物たちには見えないような工夫をしている。それは船を包みこんでいた膜に似たようなもので、内側から外側を覗くことは出来るけれど、その反対は出来ないというもので住処を包み込んでいたんだ。
それから神様は暗闇に死神を放った。死神とは神様自らの血を使い契約をしていた。それは死んだ人間の魂を送り返すといった内容だった。そのためには生きている人間に姿を見られてもいけないとも契約をしていた。そして暗闇に紛れるようにとの進言をしていた。
神様は魂の管理を天使たちに任せていた。天使たちは神様が定めた基準に従って魂の行き場を決めていた。人間が描いている天国というような世界はなく、直接に神様の世界へと連れて行かれる。天使たちが魂を抱き締めると、赤ん坊のような姿になって神様の世界へと泳いで行く。そこで魂たちは浄化をされ、消されてしまう。
悪魔たちは神様の世界で囚われの身になっていた者たちだ。神様と対立をし、神様が勝利をした。悪魔たちの父なる存在、つまりは悪魔にとっての神様が、魔王だ。神様は魔王を地下の番人として送り込むことにしたんだ。悪いことをし、死んでも神様の世界へ戻すことの叶わない人間を管理させることにした。地下の世界もまた、人の目に触れないように工夫をしている。この星のどんな鉱物や道具を使ったとしても、決して壊すことの出来ない壁で守っている。
魔王は神様に一つのお願いをした。それはこの星の恐竜と怪獣を我が物にしたいというもだった。神様はそれをよしとした。けれど決して地上に戻さないことを約束させていたんだ。
そして人間たちの暮らしが始まった。そこで目の前の景色が突然パッと光に満ちたよ。その光が身体の内側へと吸い込まれていった。その光は頭に集まり、パッと爆発するかのように一緒にどこかへと飛び散っていった。
僕の目の前に、宇宙人の姿が見えた。僕の頭に乗せていた手を、そっと離しているところだった。
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