第32話


   この星


 宇宙人がなにを言いたいのか、僕はようやく気がついた。神様のことを言いたいようだった。けれどなぜ宇宙人が神様の存在を知っているのか、とても気になった。僕はそれを素直な気持ちで訊ねてみた。

「私たちはずいぶん昔からこの星にやってきている。それはまだ、人間たちがこの星に放置される前の話だ。恐竜たちの時代が終わり、妖怪たちの時代が始まった頃だ。その後妖怪たちの世界が繁栄していた頃、突然神という存在が現れ、人間たちを放置していった。その際地下に悪魔たちの住処を作り、空に天使たちを住まわせていた。そして暗闇には死神を紛らせていた。地下には生き残っていた恐竜たちを閉じ込めてもいた。妖怪たちについては、神が直接話をしていた。妖怪たちには知能があり、ある程度の文明を築いていたからだ。そして約束をしていた。人間たちと離れて暮らすことを。結果、それは人間たちの行動によって破られることになり、妖怪たちは隅に追いやられてしまった。神はこの星の外の異空間にいるようだ。宇宙の外側とでもいうべき場所だ。そういうことだ。これが真実だ。私たちは全てを知っている」

 僕は宇宙人にもっと詳しく話を聞きたいと迫った。すると宇宙人が笑ったんだ。小さな鼻を膨らまし、頬が緩んでいた。眼の輝きからも優しさを感じた。声を出していたわけではないけれど、確かに笑っていたように、僕には感じられたんだ。その全く変わらない表情に、変化を感じた。

 そして宇宙人は、隊長を殺した手を僕の頭に乗せた。足元まで伸びる長い腕を伸ばし、三本しかない指を拡げていて、僕の頭をつかむようにしていたよ。

「君が望むなら、全てを見てくるといい」

 僕の頭の中に閃光が走った。その光は身体全体を内側から包んでいた。そしてパッと外側に広がったんだ。

 その光が消えたとき、目の前の景色が変わっていた。緑溢れる大地がそこにはあった。図鑑で見る白亜紀の景色とは少し違っていたけれど、これこそが大自然といえるような景色であることは間違いではなかった。

 僕はそこで恐竜たちの生活を目にした。少し前に姿を見せた恐竜もいたけれど、他にも色々な種類の恐竜がいた。図鑑には載っていない種類のものや、載っていてもまるで皮膚の色の違うものもいたよ。基本的に恐竜たちは、キラキラとした派手な色を好んでいたようだ。少し前に姿を現したような地味な色をしているのは少数派のようだった。孔雀とゴジラを混ぜ合わせたような姿も見えていた。

 そして驚いたことがあった。少し遠くに噴火をしている火山があり、その火口近くに、怪獣の姿を目にしたんだ。怪獣は一匹ではなかった。全てが違う姿かたちをしていたけれど、恐竜とは異質の怪獣であることには違いがない。怪獣には、恐竜とは似ても似つかない特徴があるようだった。それを口で説明するのは難しい。ただ、一目見れば誰にでも判別は出来る。どんなに異様な形をしていても、どんなにそれらしい形をしていても、ほとんどそっくりだとしても、恐竜には生き物としての生命力を感じるけれど、怪獣からはそれが感じられないんだ。怪獣はまるで、着ぐるみのように見える。例えそれが人体的には不可能だとしても、偽物感丸出しだった。そこには確かな本物が存在していたにもかかわらず。

 驚いたことはもう一つあった。遠くにあったはずの火山が、いつの間にか近くにあったんだ。そして怪獣の姿を確認すると、今度は怪獣のいる火口付近に視界が近づいていた。

 怪獣たちはお互いに仲が悪いようで、常に戦っていた。傷つけ殺し合っていた。敗れた者は、それが当然のように喰われていた。

 けれどそんな身体の大きな怪獣も、殺した相手を一匹丸ごと食べきることは出来ないようだった。相手も同じように大きな身体をしていたから当然かも知れない。自分と同じ重さの食事をとるなんて、人間だろうが怪獣だろうが普通は無理だってことだよ。

 そんなお残りを食べているのが、妖怪だった。妖怪はチョコチョコと怪獣たちの間を動き回り、お残りを貪っていた。僕は恐竜たちの生活している大地や森にも目を向けていた。そこにも妖怪たちの姿があった。妖怪たちはやはり、お残りを貪っていた。

 僕は妖怪たちの暮らしが気になった。すると森が近づいてきた。僕は森の中に入り込んだ。そこには川が流れていて、木で造られた家が数軒建っていた。

 そこでは妖怪たちが生活をしていたんだ。僕たち人間と同じように、集落を作り、共同生活をしていた。怪獣や恐竜たちのお残りを子供たちに与えてもいた。女性と見られる妖怪は川で洗濯をしていた。男性と見られる妖怪は薪を割っていた。古き良き生活が、そこには見てとれた。

 頭上から白い綿が降ってきた。僕にはその温度までは感じられなかったけれど、それは雪だったはずだ。その雪はあっという間に積もっていったよ。辺り一面が、真っ白になっていた。そしてついには森も大地も氷に覆われてしまったんだ。

 恐竜や怪獣たちは身を凍えさせ、次々に倒れていく。そんな中、妖怪たちは薪で火をつけ、家の中で寒さをしのいでいた。

 その結果、恐竜や怪獣はほぼ全滅してしまったが、妖怪たちと、僅かな小動物、寒さに強い昆虫や魚などは必死に生き抜いていた。恐竜や怪獣も僅かには生きていたけれど、以前のような桁外れた強さは見受けられなくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る