第29話


   怪獣


 とそのとき、僕たちとそいつの間の地面が、割れた。ゴゴゴゴーッと大きな音を立てながら、割れ目からは炎と煙が立ち上がっていた。その中からはゆっくりと、ごつごつとした硬い真黒な皮膚を持ったなにかが出てきた。

 そのなにかは目の前の恐竜にも似ていた。けれどもっと大きく、身体もしっかりとしている。足は短く手も短い、身体の割には顔も小さかった。テレビなどで見る、怪獣の仲間によく似ている。

 その怪獣は口を開け、火を噴いた。凶暴な恐竜は、焼け焦げ、死んでしまった。怪獣は叫び声を上げ、短い脚でドタドタと走り回っていた。そして周りの恐竜たちを次から次へと焼き尽くしていく。

 恐竜たちも抵抗をしていた。けれどその怪獣は、とても強かった。噛みつかれて黒い血を流したり、凶暴な恐竜に掴まれ投げ飛ばされたり、尻尾で吹き飛ばされたりしても、最終的には火を吹き、全ての敵を焼き殺していた。

 その攻撃は、僕と隊長が乗っていた恐竜にも向けられたよ。僕と隊長は恐竜の背中を走り、尻尾を滑って地面に降りた。そしてすぐ、走って遠くに逃げていく。その恐竜がどうなったのかは分かるだろ? 僕と隊長が地面に降りた瞬間に黒コゲだよ。

 その大地に隠れる場所はなかった。怪獣はゆっくりと、僕たちの方に近づいてくる。必死に逃げても意味がない。怪獣の足がいくら短いとはいえ、人間の一歩とは比べようもない歩幅を持っているんだ。

 空が震えるのを感じた。その直後に、二台の戦闘機がやってきた。怪獣はミサイル攻撃に耐えきれず、倒れたよ。その光景に少しホッとした。素早い戦闘機の動きに、無敵に見えた怪獣は一つの攻撃も与えられないままに倒れてしまったんだ。

 戦闘機は倒れた怪獣にも攻撃を続け、完璧に息の根を止めてからその空を去って行く。隊長は戦闘機に対し、敬礼をしていた。直立不動? 隊長のその姿はまるで彫刻のようだった。隣で僕は、そんな隊長をボケーっと眺めていた。

 その戦闘機は悠然と空を舞っていた。しかし、動きを取り戻した隊長が敬礼していたその手を下ろしたその瞬間に、突然バンッ!という大きな音とともに爆発をしたんだ。

 二台ともが一瞬にして粉々に吹き飛んでしまったよ。オレンジ色の炎と黒い煙だけが空に浮かんでいた。無残だという言葉が僕の頭には浮かんだよ。それがどうしてなのかって? その光景を目にした者にしか分からないだろうね。台所に飛び交うハエを叩き落とすようだと言えば分かるかも知れない。

 僕と隊長は言葉もなくその黒煙を見つめていた。そうするしか出来なかったんだ。思考も身体も完璧に固まってしまっていたからね。

 すると辺りが真っ暗になった。突然にパッではなく、徐々に薄暗くなり、辺りを見回している間に空全体が真っ暗に染まっていったんだ。

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