第30話


   円盤


 その空の上には、なにかがあるように感じられた。というのは、その時点では空だけではなく、全てが真っ暗闇になり、なにも見えなくなってしまっていたからだ。

 僕の目が夜目になる前に、そのなにかは自ら発光をしていた。チカチカチカチカと、いたる所から小さな光を発していた。そして僕は気がついた。それがとてつもなく大きな円盤だということにね。金属とは違う黒く光沢のない素材で作られていた。それをいくつも継ぎはぎのように張り合わせているように見えたんだ。そして僕には無機質に見える光を発する丸いなにかが、空一杯に散らばっていくように感じられた。実際の僕の目にはその光が無意味に並んでいるようにしか見えなかったんだけれどね。空に浮かぶ円盤の形? そう感じる誰かがいてもおかしくはないかも知れないと、今では感じる。

 その円盤はゆっくりと下に降りてきた。僕と隊長はなす術がなく、迫りくる圧迫感に押し潰されそうになっていた。

 するとなにやら大きな物音が聞こえてくるんだ。円盤の上を戦闘機が飛んでいたようだ。そして爆弾を落とし、ロケットを打ち込んでいたように感じた。

 円盤は一気に空高く舞い上がっていった。その際数台の戦闘機を上に押し潰していったようだ。グチャという鈍い音が聞こえていたからね。円盤が地球の外に出た頃、ポロポロと脇からなにかが落ちてきた。そのなにかは、戦闘機の残骸だったはずだよ。ドカンッと音を立て、少し遠くに落ちていた。少しといっても、それは地球規模での話だよ。僕のいた場所からは肉眼では確認できない場所にその残骸らしき物は落ちていったんだ。

 大きな円盤の真ん中から、なにかが出てくるのが見えた。それもまた、円盤だった。小さなもので、数十台、いや、もっと多くあったかもしれない。その円盤は散り散りにどこかへ飛んで行った。数台がその空に残り、浮かんでいた。

 その円盤は小さいとはいえ、野球場ほどの大きさがあった。それぞれの円盤が地上に降り立とうとしていた。一台の円盤は、僕と隊長のいたすぐ側に降りてきていたよ。

 そのとき、少し遠くから車のようなエンジン音が聞こえてきた。その音の方向に目を向けると、煙を噴き上げ、どんどんと近づいてくる。隊長にはすぐ、それがなんなのかが分かったようだった。

「あいつら・・・・ 生きていたのか」

 隊長の目には、涙が浮かんでいるように見て取れた。近づいてきたのは一台の戦車だった。戦車は円盤から一定の距離を取って停車していた。そしてドガンッ! と円盤に向けて大砲を放った。

 大砲の弾は円盤に命中し、轟音とともに煙を上げた。けれど円盤は、ピクリとも動かない。煙が消えてなくなったとき、円盤には少しの傷もついていなかった。驚き? そんな余裕はなかったよ。なにも感じずにその様子を見ていただけだからね。

 円盤は地上から数メートル浮いた状態で停止し、円盤裏の中心から明るい光を放ったんだ。そこから銀色の肌をした生き物が数体、宙ぶらりんに降りてきた。それは少し前に現れた、宇宙人と同じ姿をしていた。

 宇宙人たちは真っ直ぐその戦車に飛びつき、破壊していた。中にいるはずの隊員ごと、粉々にしてしまったんだ。一瞬の出来事だったよ。怪獣の攻撃よりも破壊力抜群だった。

「ウォー!」

 隣にいた隊長が突然大きく叫んだ。そして戦車のあった場所にいる宇宙人に向かっていったんだ。拳銃をカチカチとしていたけれど、すでに弾切れだよ。隊長は走りながらその拳銃を宇宙人に投げつけた。

 宇宙人はその拳銃をかわし、隊長に向けて長く伸びた指を一本差し向けた。その指からは、ピンクの光が伸びてきていた。真っ直ぐに、隊長の眉間に向かって。

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