第27話


   原爆投下


 そしてすぐ、ドガンッ! と大きな爆音が届き、地面が揺れた。瓦礫が崩れているようだったけれど、その音はかき消されて届いてこない。

「伏せろ!」

 隊長が大声でそう言う。僕はその場でとっさにしゃがんだ。隣の隊長は、頭を抱えてベタッと地面にうつ伏せていた。僕は横目でそれを見て、すぐに真似をした。

 グワッー! と爆音が波に乗って向かってくるような音が響いてきた。それと同時に、空気が揺れ、爆風となり僕と隊長の頭の上に襲い掛かってきた。地面に伏せていても感じる衝撃、服はバタバタとなびき、手にはビリビリと痛みを感じていた。

 その時間はかなり長かったと思う。頭の上では、瓦礫や石などだけでなく、いくつもの悲鳴が通り過ぎていくのが感じられた。人間や悪魔、妖怪たちも飛ばされていたと思うよ。おかしな物体が浮遊してるのを目撃している。

 風が止んでからも、隊長は少しも動かなかった。死んでしまったのかもしれないと思ったよ。僕の体には触れなかったけれど、飛び交う瓦礫などが服を掠めたり、すぐ近くの地面にぶつかる音などが聞こえていた。

「生きていますよね?」

 僕はそう言いながら隊長へと顔を向けた。隊長の首が、ゆっくりと動いた。

「あぁ、もう大丈夫だな。第二波がくるかとも思ったが、一発で片付いたようだ」

 隊長が立ち上がるのを待ってから、僕も立ち上がった。

「人間の仕業・・・・ なんですよね。核を使ったということですか? 映像で見るとの桁違いですよ。いったいどこで? あんなに大きなきのこ雲が、あんなに遠くに浮かんでいる」

 立ち上っていた煙の塊は、宇宙にまで届いているように見てとれた。

「この世界は、本当に終わってしまうかも知れないな」

 僕と隊長が立っているその場所に、それ以前の瓦礫の山は無くなっていた。地面にいくつかは転がっていたけれど、三百六十度の荒野が広がっているように見えたよ。

「どこの国が落としたんですか?」

「君は知らないかもしれないが、この国も核を持っていたんだ。こういうことがあるかもしれないからな。他の国でも投下しているはずだ。我々は自分たちを守るためにと、敵へ攻撃をする。それが自分たちへ返ってくることを考えずにな。俺と君は被爆者だ。すぐにでも死んでしまうかも知れない」

 そんなセリフを隊長は真剣な眼差しで言っていた。笑ったりはしなかったけれど、僕は少し、おかしく感じてしまった。

「他の隊員は、死んでしまったんですか?」

「それは分からない。けれどここからなにも見えないということは、そうかも知れない。我々の部隊はここからそう遠くないところで戦っていたんだ」

「天使たちも?」

 僕がそう言ったとき、遠くに浮かぶ人影が見えた。僕にはそれが、天使たちであることが自然と分かったんだ。何故なのかなんて聞かないでほしいよ。分かるもは分かるんだとしか、言いようがないんだから。

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