第26話


   世界大戦


「他の部隊はどうなっているんですか? 聞いた話では、世界中がこのような事態になっているそうですけど」

 隊長は僕と二人で瓦礫の陰に身を潜め、話をしてくれた。詳しくは分からないといっていたけれど、そこはさすがに軍隊の情報網だよ。世界の状況を僕以上に把握していた。

 世界各国、主要都市だけに限らず、町や村、人の暮らす全ての地域で同時に地震が起き、ほぼ全ての文明が崩れ去ったそうだ。大勢の人が死に、その中には多くの政府の要人たちも混じっているという。安全だといわれ続けていた土地にも、地震の被害は関係なく襲っていた。

 そんな中、各国の軍の施設だけは被害を最小限に食い止めることが出来たという。そこはその国一番の災害に強い造りになっているからだ。こういった災害を想定した上で造られた施設なんだそうだ。

 今この世界は、各国の軍が動かし、守っているというのが現状らしい。とはいっても、精一杯の状況だとも言っていた。地震の直後に悪魔や妖怪たちが現れ、有無もなく戦闘が始まったのだから無理もない。

 当初は衛星無線がかろうじて繋がっていたと隊長は言っていた。それを通じ、他の軍隊と連絡をとっていたそうだ。そこで世界の状況を知ったんだ。妖怪や悪魔の退治方法は、外国の部隊が見つけたらしい。

 その方法は簡単だった。初めに隊長が教えてくれたように、脳みそを打ち抜くだけだ。他の部分は傷を負わせ、動きを鈍らせることは出来るけれど、効果は薄い。悪魔は痛みに鈍く、すぐに痛みを忘れてしまうんだ。妖怪は、傷を再生する力を持っている。

 その方法を死神にも試したという。けれどまるで、無意味だった。天使に対しては、銃を向けることさえ出来なかったそうだ。気持ち的にではなく、現実として身体が言うことを聞かなくなったらしい。したくてもできないことが、この世界にはあるということを知ったよ。もっとも僕は、天使に銃口を向けるほどの度胸は持ち合わせていないけれどね。

 各地での戦況は、その時点では人間たちが優勢だったという。けれど現時点では分からない。衛星無線も、その他の通信手段も、全てが途絶えてしまっていると言っていた。

「それで君はなにを知っている? 誰から世界のことを聞いたんだ?」

 隊長はそう言いながら立ち上がり、瓦礫の影から外に出た。僕も一緒に外に出る。

「信じられないかも知れませんが、天使は僕を助けてくれました。そのときに少し、話を聞いただけです」

 僕は隊長に顔を向けてそう言った。そのとき、視線の端で遠くでなにかが光るのを捉えたんだ。小さな白い光。それはすぐに大きく膨らみ、パッ! と広がった。

その光は空一面に広がっていく。

「ついに始まってしまった。最悪の事態だ」

 隊長はその光を、銃を持っていないその手で両目をふさいで見上げていた。

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