第20話
死神の体内
そんな死神たちがいる方向に僕の家がある。僕は真っ直ぐ、家を目指して向かうしかなかった。死神たちを避け、遠回りをして道を間違えるのはバカらしい。それに、それまでの経験から、死神が僕に危害を加えないであろうことも分かっていた。
死神たちとの距離が近づくに連れ、死神たちの数が減っているように感じられた。大勢いたはずの死神が、僕の目が意識出来ない間にその数を減らしていたようなんだ。一度も目を逸らさずにいたはずなのに。
死神の目の前に辿り着いたとき、そこには大きな死神が一匹、ふわふわもせずに浮いているだけだった。
「他の死神はどこに?」
僕の言葉が届いている様子はない。僕だって、その声が届くとは微塵も思っていなかった。その死神は微動だにせず、ただその赤い視線を僕に向けていた。
「僕を消してしまうのかい? そのキスで、僕を吸い込むつもりなのかい?」
死神はやっぱりなんの反応も示さない。襲われるのも怖いけれど、無視をされるのも、ある意味での恐怖だよ。
僕はもう一歩、この足を前に踏み出した。死神から発せられる冷気を感じて足がすくんだけれど、我慢をしてもう一歩を踏み込んだ。僕の身体が、死神の冷気で包まれた。もうダメだ。吸い込まれてしまうと感じたよ。死神のフードから、スーハースーハーと濁った息遣いが聞こえていた。
けれど予想をしていた変化は起こらなかった。安心をしたのか、僕はとんでもない行動を無意識にとっていた。死神に向かってもう一歩を踏み出していたんだ。
そしてそのまま死神の身体に入り込んでいく。その死神は大きいとはいっても、魔王と比べれば子供のようだよ。背丈は僕の三倍ほどしかなかったからね。
死神の下半身に入り込んだ僕は、全身に鳥肌が立つのを感じた。ブルッと身体が震え、肌がピリピリと痛かったのを覚えている。
僕は震えている足を止めようかとも思ったけれど、ここで止まってはいけないと心が感じ、必死に前進したんだよ。実際の距離よりも、その中はとても長く感じた。数分間、前だけを見て歩いていたような気がする。
死神の背後に出た僕は、とにかくそのまま真っ直ぐに歩き進めた。振り返ることをせず、家のある方向を目指した。そうした理由は自分でも分からないけれど、そうするしか頭になかった。それが真相なんだ。
歩いている途中には、様々な不安に襲われたよ。家についても誰もいないかも知れない。いたとしても、生きてはいないかも知れない。妻と子供たちの遺体を目にすることになるかも知れない。急に僕は、そんな不安に襲われたんだ。一人きりで歩いていたせいなのか、死神の身体を通り抜けたせいなのか、答えはわからない。不安に答えなんていらないんだろうけれどね。不安は常にその心の中に存在している。
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