第16話
地獄絵図
僕はこの顔を真っ直ぐミカへと向けた。そこにはミカが一人きり。悪魔の姿はなかった。ミカがずっと、僕を見つめていた。
「さぁそろそろ前へと進みましょう。時間がなくなってしまいます。いつまでもここで足止めされているわけにはいきませんからね」
そんなミカの声が耳元に聞こえてきた。
「それでは今すぐ、この場を片付けるとしよう」
男性の天使の声だ。
「僕はまだここにいればいい?」
「そこでじっとしていて下さい」
僕の言葉に二人の天使が同時に答えた。
その後僕の目に広がった光景は、絵画や映画などの影響で僕がイメージをしていた地獄絵図そのものだった。じっと眺めているだけで恐怖を感じる。立っていることが出来なくなり、座り込んでしまったほどだ。目の前の光景をまともに見ることが出来なかった。目を瞑りたくなる光景。それでもほんの少しの好奇心。怖いもの見たさってやつだ。半分の目を開いてその光景に向けていた。
時計の文字盤のように別れて戦っていた悪魔たちが、二人の天使の言葉を合図として全てがごちゃ混ぜの戦いが始まった。僕を中心とした輪を描き、大きな戦いが繰り広げられていた。その戦いには僕を睨んでいた三体の死神も参加をしていた。僕はホッと、その緊張感を緩めた。地獄絵図の中での小さな休憩。
四人の天使たちは悪魔を主に攻撃していた。死神もまた、悪魔たちと戦っていた。といっても、死神と天使が仲良く共闘していたわけではなく、それぞれが勝手な戦いをしていたまでのこと。天使を邪魔する死神もいたよ。そんな死神に対してはミカとは違う女性の天使が対応していた。幽霊たちも頑張って悪魔と戦っていたけれど、そんな中、自ら天使に抱きつき素っ裸の赤ん坊になって空高く消えていく幽霊も少なくはなかった。
激しい戦いを繰り広げている中、大きな輪が徐々に小さくなり、僕との距離を詰めていた。悪魔の血が、手を伸ばせば届きそうな場所に飛び散っていた。
僕はなるべく現実を直視しないように下を向いていた。とはいっても、完全に全てから目を逸らすことは出来ない。肉をえぐるような重たい音に目を向けてしまい、その光景に気分を害してしまう。僕は何度も嗚咽を上げていた。
しゃがみ込んでいた僕が、胃液しか出てくるものがなくなった何度目かの嗚咽を上げていたときのこと、突然に全ての物音が消えた。空気の流れさえ感じられない全くの無だった。そんな状態が、僕の感覚では数分間も続いていたはずだよ。
そんな無の状態を破ったのは、突然の光だった。空がピカッと世界全体を照らす暖かな黄色の光。音のないその光に悪魔たちの悲鳴が重なった。僕はその光に目を眩ませながらも辺りを見回した。
地上を照らすその光に、黒い影が見えた。その影は煙のように光の中に溶け込んでいく。悲鳴も共に溶け込み、消えてなくなった。
すると今度は直後に地面が揺れた。地震とは違う不自然な揺れだった。僕の真下だけが揺れていた。
スドンッ! と大きな音と共に、僕だけが揺れたんだ。周りは微動だにしていなかった。その大きな音に気がついていないかの素振りを見せていたよ。大きな揺れに慌てる僕に不思議顔を向ける幽霊の顔が見えていた。
その直後に、僕の座っていた地面がストンッ! と落ちていった。真っ暗な地下の中に落とされた。初めは真下に落ちていき、その後は滑り台を下るような感覚だった。恐さは少しも感じない。楽しいと感じたくらいだったよ。
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