一人ぼっちの小日向さん

梓珠悠茉

一人ぼっちの小日向さん

 一人ぼっちの小日向こひなたさん。

 小日向さんはクラスで一人ぼっちです。


 さかのぼる事、入学式。

 晴れて高校に入学した。

 私の中学校からは数人しか入学していなくて、クラスには誰も知り合いがいなかった。

 高校に入って友達が出来るか心配だった。

 心配だったけど、何とかなるだろうと思っていた。


 入学式。


 私の通ってた中学校は学年に150人ぐらいで、5クラスだった。

 小学校では70人ぐらいで2クラスだった。

 中学校の時にこんなに沢山の人たちがいるのかと驚いたけど、高校は倍以上の人とクラスになった。


 中学生の時は、高校生がキラキラして見えて、早く高校生になって青春を謳歌したいって思ってた。


 入学式が終わった。

 まだまだ皆クラスに慣れていないからか、静かだった。

「これから一年よろしくお願いします。担任の鈴木です」

 今年の担任の先生は男で若かった。

 今日は入学式だけで終わった。

 今日は金曜日。

 土日を挟んで、月曜は半日で火曜日から弁当持ちで一日学校らしい。


 月曜日。

 新しい友達が出来るのかなって、不安とワクワクが混ざった気持ちで学校に向かった。

 着くのが少し早かったのか、クラスにはまだ数人しかいなかった。

 いざ話しかけようとすると、勇気がなかった。

 話しかけよう、やっぱり話しかけるのは、そんな事を繰り返している内に、クラスの人が集まってきた。

 担任も入ってきた。

 朝の連絡が終わって、放課になった。

 初めまして、名前教えて。

 クラスのあちこちからそんな会話が聞こえてきた。

「名前なんて言うの? 」

 初めて話しかけられた。

 ニコニコして、可愛い子だった。

小日向梨子こひなたりこです」

 ボソッと言った。

「梨子ちゃんね! 笹本美那ささもとみなです。よろしくね! 」

「よろしくね」


 今日、美那ちゃん以外の人は誰も話しかけてくれなかった。


 火曜日。

 今日こそ、自分から話しかけよう。

 クラスのドアの前で、自分の頬をパシパシと叩いた。

 クラスに入ると、昨日と違って半分ぐらいの人がいた。


「あ、昨日の! 」

「そうそう、もしかして? 」

 なんて会話が聞こえた。

 聞き耳をたてていると、そこの子たちは、SNSで知り合ったらしい。


 どうしよう。

 私、SNSやってない。


 まず、そこからつまずいたかもしれない。

 SNSなんてやってなくても大丈夫、自分に言い聞かせて話しかけた。

「小日向梨子です、よろしくね」

「よろしく! 」

 二人は笑顔で返してくれたら。

 やっぱり自分から話しかければよかったんだ。

 お昼ご飯、その子達と弁当を食べた。

 三人グループだった。

 朝の自分に言いたい。

 心配しなくても友達出来たよって。


 一週間後。

 あれから私は火曜日にお弁当を食べた子たちといた。

 二人と話すのはすごく楽しかったし、たくさん友達がほしい訳ではなかったから、他のクラスの子とは月曜日に話した美那ちゃん以外は話した事がなかった。


 お弁当。

 いつも通り一緒に食べようと、二人の席に向かった。

「今日はあの子達と食べよう」

 一人の子に言われて、四人組の子たちとお弁当を食べた。

 私以外の二人は楽しそうにその子達と話してたし、四人組の子達も楽しそうだった。

 それなのに私は。

 なんだろう、この疎外感。

 私は二人としか話してなかったから、上手く話に入れなかった。


 三人でいる時は楽しいけど、お弁当の時間は好きではなかった。

 本当は三人でいたかったけど、二人は楽しそうだったからそんな事は言えなかった。


 二週間が経った。

 私たちは七人でいるようになった。

 私以外の六人は、昨日見たドラマとか、オシャレなカフェを見つけたとか話してるけど、私はドラマは見てなかったし、オシャレなカフェを知らなかった。


 更に一週間が過ぎた。

 話が合わない私の存在が嫌になってきたのだろうか。

 態度が少し冷たい気がした。

 それでも私はそれに気づかない振りをして、学校生活を送っていた。


 だけど、聞いてしまった。

「梨子ちゃんって話合わないし喋らないし」


 態度が冷たいのは気のせいではなかった。

 そう思われてたのに、まだみんなといるのは精神的にキツかった。


 またまた一週間過ぎて、入学式から一ヶ月が過ぎた。


 私は一人ぼっちになってしまった。

 自分から離れていったのだけど、一人ぼっちも嫌だった。


 中学校の時は明るくて面白いって言われてたけど、今の私は暗くて無口、多分こんな印象なんだろう。

 私が一人でいても、誰も声を掛けてこない。

 目が合ってもすぐ逸らされてしまう。


 みんながお弁当を楽しそうに食べているクラスの中で食べるのは、最初は一人でも大丈夫だと思っていた。

 だけど、三日もしないうちに、外の中庭にあるベンチで食べるようになった。

 誰も来ないし、太陽の光があまり届かないこの場所は私にぴったりだ。


 放課は一人で本を読んで過ごした。

 中学校の友達が今の私を見たら多分、すごく驚くと思う。


 六月に体育祭があったけど、目立たないような競技にでて、ただただじっとしていた。


 中学生の時に思い描いてた高校生活なら、体育祭でワイワイ楽しくやってるつもりだった。

 体育祭だけじゃなくて、普段の学校生活も放課後に何処かに寄り道したりするつもりだった。

 今の私には遠すぎる事だった。


 もうすぐ夏休み。

 夏休みに入れば少しは気が楽になるだろうと思っていた。

「夏休みは最初と最後に補習があるから、しっかり参加しろよ」

 みんなからはブーイング。

 夏休みも学校に来ないといけないなんて。

 やっと学校に来なくていいと思ったのに。

 強制ではないらしいから、全部休もうかな。


「梨子ちゃんは補習全部出る? 」


 私に話しかける人なんていないと思ったから、一瞬固まってしまった。

「うん」

 あっ、行くって言ってしまった。

「そっか。なら私も行こうかな」

「美那、なにしてるの、こっち来てよ」

「今行く」


 話しかけてきたのは美那ちゃんだった。

 四月に話してからは一度も話してなかった。

 私に話しかけてくれるなんて、優しい子だな。


 いつも通りに中庭でお弁当を食べていた。

 半分ぐらい食べ終わった時に、足音が聞こえてきた。

 先生だろうか。

 今まで誰も来なかったのに。

 足音が止まった。

 そこに居たのは、美那ちゃんだった。

「探したよ、いつもここで食べてるの?」

「うん」

「なんで? 」

 なんでって、美那ちゃんは分かっていると思うけど。

「ここが落ち着くから」

 嘘ではなかったけど、一番の理由はクラスにいるのが嫌だったから。

「そっか、これから私も一緒に食べていい? 」

「え? 」

 思わず言ってしまった。

 だって美那ちゃんは友達がたくさんいて、キラキラしていた。

 私なんかと一緒にいるなんて。

「他の子と食べなくていいの?」

「うん、みんなと食べるのも楽しいけど、梨子ちゃんとも食べたいから」

 ニコニコしながら、真っ直ぐな目で言った。

 真っ直ぐな目で見られて、断れらる訳がなく、一緒に食べた。


 次の日も、その次の日も美那ちゃんは私と弁当を食べた。

 いつも美那ちゃんといる子たちの視線が痛かった。

 視線は痛かったけど、やっぱり誰かとお弁当を食べるのは楽しかった。


 なんで私といつもお弁当を食べてるのか分からなかった。

 理由は私と一緒に食べたい、だけではないと思う。

 だけど、その事を聞いて美那ちゃんが私から離れていくのが怖かった。


 理由を聞けずに、夏休み前日になった。

「梨子ちゃん」

 美那ちゃんが私の所に駆けて来た。

「明日から夏休みだね。でも補習だから夏休みじゃないみたい」

「そうだね、でも私最初の補習休むの」

 サボろうとした訳ではない。

 しっかり休む理由はあった。

「そうなの、じゃあ暫く会えないね」

「うん」

 私は今日、覚悟を決めていた。

 補習を休むから、会うとしても夏休みの出校日。

 今まで怖くて聞けなかったけど、美那ちゃんにどうして私と一緒にいてくれるのか聞こうと思った。


 放課後。

「美那ちゃん」

 美那ちゃんが帰ろうとしていた所を引き止めた。

「どうしたの? 」

「ずっと聞きたかったんだけど…… 」

 いざ聞こうと思うと、また勇気が出なかった。

 私は何回も同じ事を繰り返す。

「初めて梨子ちゃんから話しかけてくれて嬉しいよ」

 美那ちゃんから予想してなかった言葉が出てきた。

「ゆっくりでいいから、梨子ちゃんの話聞きたい」

 そう言ってくれて、私はもう一度覚悟を決めた。


「どうして友達がたくさんいるのに、私と一緒にいてくれたの? 」


 聞いてしまった。

 嫌われるのだろうか。

「梨子ちゃん、中庭行こう」


 そう言われ、美那ちゃんに手を引かれて中庭に行った。

 いつも二人でお弁当を食べていた場所。

「私ね、中学生の時に一人ぼっちだったの」

 私の聞き間違えだと思うぐらい、驚きの言葉だった。

 今とは全然違って、人見知りだったらしい。

 一人でいた時に、一人の女の子が話しかけてくれて、今みたいに明るくなった。


 今の私みたいだった。

「梨子ちゃんが昔の私を見てるみたいで。話しかけるのに勇気がなくて、遅くなっちゃったんだけど」


 涙が溢れてきた。

 泣いている私を美那ちゃんは、抱きしめてくれた。


 今まで学校に行くのが嫌だったけど、美那ちゃんがいるなら行ってもいいかなって思った。





 一人ぼっちの小日向さん

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一人ぼっちの小日向さん 梓珠悠茉 @Azumimi_Yuma

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