第4話 南風雨
彼女は淡い半透明な液体を暫く見詰めて、一気に飲み干し「大人なマスターに乾杯」と声を掛けると彼は照れながら「僕は只のバーデンです」と言い「別れの後に直ぐに出会いがあります、お客様なら」と付け加え
彼女は「そうです。私は最高だから」と笑った。
そんな会話の中店の扉が開きスーツ姿の男とワンピースを着た女性のカップルが入り端のカウンターに座り、彼女は同じ物を注文し彼は頷き離れていった。
それから数人のお客が来店しバーとしては込み合う時間になり、彼女はゆっくりとマティニを飲み、時々彼と話をしては時間を過ごし飲み終えると席を立ち扉に向かい歩き始め、其れを他の客と話していたバーテンが気付くと後を追った。
「お帰りですか」と後ろから声を掛け、彼女は「帰ります。」と言い支払を済ませ彼が扉を開き彼女は表に出て空を見上げた。
「風が気持ちいい。潮風かしら」と後ろを向き彼に問いかけると
「ご存知と思いますが、今の季節、雨上がりの南風を南風雨と言います。この辺では雨が南風を運んでくるのと言われていて、この風が吹くと初夏の始まりです。」と語った。
彼女は「南風雨」と言うと彼は付け加える様に「この風は良い出会いを運んでくると思いますよ」と言った。
「マスターは最後まで優しい。でも、大丈夫私は立ち直りも早いから」と笑い駐車場へ向かい歩き始め彼は彼女の凛とした後姿を見送った。
南風雨が彼女の髪を揺らし、駐車場の外灯が彼女の輪郭と指先の赤いマニュキュアを際立たせていた。
今夜は南風雨 @kaibakougan
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