イケメンGO(ホラー)2400字台

「ねえ美優みゆ知ってる? イケメンGOってアプリ」


「何それ?」

「ある日入れた覚えもないのに携帯に入ってるんだって」

「怖っウィルス?」

「良くわからないけど、イケメンの位置が表示されてゲットもできるって話」

「あははポケ○ンGOのパクリじゃんそれ。眉唾~」


 休み時間の教室。

 どこから仕入れて来たのか、友人莉乃りのの話にそこそこ興味ある風に答える私。

 本当はイケメンとかどうでもいい。

 私の外見目当てで近寄って来る男とかマジで無理。そういうのにかぎって割と美形だったりしてさ。だから面のいい男は正直苦手だ。


 大体、私は莉乃の事が……って、これは内緒。


「でもさ、イケメン彼氏ゲットしたいよね」

「はいはい頑張って」

「もーっ美優はいつもクールなんだから。あ、美少女GOってのもあるみたいだよ」

「はいはい男女公平だわね」


 おざなりな態度で応じるも、莉乃のイケメン好きには困ったもんだ。目ぼしい芸能人は勿論、どこどこの中学高校大学の何それ君がカッコイイとか、ローカルレベルでのイケメン網羅スキルも凄い。

 ……妬ける。





 そんな会話をすっかり忘れて何日も経ったある朝、家で携帯をいじっていると見慣れないアプリがある事に気付いた。

 しかもよくよく見るとシンプルな企業ロゴのようなアイコンにはイケメンGOとあった。


「うっわマジでこの名称なんだ……!」


 可笑しくなった私は、それが変なウィルスかもしれないとは思いつつ好奇心に負けてそのアイコンをタップしてしまった。

 次には説明も無しに画面が現在地を含んだ地図に切り替わる。

 画面には幾つかの逆三角形の矢印が表示されていて、地図上を移動している。


「いきなりだし。まさかこれがイケメンの位置?」


 仮にイケメンをゲットできたらどうなるんだろう?


「恋人に? ……アホらし」


 とは言いつつ、興味から私は登校の間もイケメンGOを起動したままにした。

 矢印のほとんどは離れた位置にいたけど、降車駅のホームでようやく近距離の矢印を見つけ人混みの中その姿を探せば、学年一の美形と言われる同じクラスのS君だった。

 更には、駅から学校までの道のりで見つけた別の矢印は一個上のN先輩だった。


 なるほど確かにイケメンの位置を示している。

 でもどうやって位置を?

 不可解なものを感じつつもN先輩の後ろを歩いていると、彼が誰かに声を掛けた。


 莉乃だった。

 え、いつのまに知り合いに?

 でも先輩は女で良い噂を聞かない。


 と、手の中の携帯画面がN先輩オンリーに切り替わり、ゲットボタンが出現。


 同時に今更ながら使用上の細かな説明も流れたが、面倒で飛ばした。


 それよりも私を占めるのは、強迫観念にも似た思いだった。


 ――彼をモンスターのようにゲットしてしまえばいなくなる?


 常識的に有り得ないと理性ではわかってる。

 でも、気付けばボタンをタップしていた。

 捕獲ボールを投げるわけでもなく、画面には投げ縄をする天使のアニメーションが出て来た。

 ……そこはキューピットの矢じゃないんだ、とか内心で突っ込みつつ画面を見つめていると、天使はゲット成功の文字と共にドヤ顔で親指を立てた。


「……」


 その証拠にアバターが一体現れる。

 何これ先輩そっくり!

 そう思って前を見ても、先輩の姿は普通にあった。


「何だやっぱ、だよね……」


 画面上にさっきまであった矢印は消えていたけれど。


 その後一日先輩が接触してくる気配もなかった。

 まあ当然か。少し振り回されていた自分に呆れた。

 だけどその捕獲ゲームに多少なりとも鬱憤が晴れたのは確かだった。


 その後私は、世の人々がモンスター集めにハマるように、ゲーム感覚と言う軽い気持ちで見つけたイケメンをゲットしていった。

 どう言う原理かは知らないけど、捕獲対象とそっくりなアバターが出て来るのは面白かった。


 ゲットした時は空の器のように無表情で動きもしなかったキャラたちは、一日もすれば幾つもの表情を付けて喋るようになった。そのタイムラグが気になりはしたけど、優れた人工知能が入っているのは理解できた。





 アプリの事を誰にも言わずに一月経った頃、ワイドショーはある話題を報じていた。


 ――ここ最近、若者の家出が増えているようですが……。


 コメンテーターは「衝動的にですかね」「皆どこへ?」なんて他人事のように喋っている。

 この学校でもN先輩とS君が行方不明になっている。

 私の携帯には彼らに良く似たアバターたちが並んでいる。

 でも失踪とは関係ない。

 だってこれはアプリゲーム。単なるデータだ。





「じゃあ莉乃、私こっちだから」


 今日も携帯でイケメンを探しつつ手を振る。


「あ、待って美優。ちょっとこれ見て」


 学校帰り、駅前での別れ際、莉乃が携帯を見せて来る。そういえば昨日も携帯を気にしていたような。


「あのね、昨日気付いたら入ってたの」


 そう言って指差したのはイケメンGOに似たアイコンの「美少女GO」だった。


「これ!?」

「そう。前に美優に話したやつだと思う」


 そう言って莉乃はタップして起動した。

 地図画面に切り替わる。


「でね、半信半疑でやってみたら本当に美少女の位置に矢印が出たの」

「へえ」


 現在地に矢印がなくてホッとする反面、自分が美少女認定されてない事に軽くショックを受け内心苦笑する。おこがましいか。


「それで、昨日美優との別れ際ゲットできるか試したら、美優にそっくりなキャラが出て来たの。可愛いでしょこれ!」

「……え?」


 嬉しげに、そして無邪気に見せて来る無機質な画面の中には私そっくりなアバターがいた。

 私は大きく目を見開いた。

 そういえばゲットした相手からは矢印が消えたっけ。


「美優?」


 訝しむ友人の顔や視界がどんどん薄れて行く。


 え、何……?

 自分が抗えない力に原子レベルで小さく解かれていくような、そんな感覚に襲われた。

 走馬灯とでも言うのだろうか、私は今になってある事を思い出していた。

 ゲットボタン直前で色々と説明が流れたその時、一文にはこう書かれていた。


 ――ゲットした人間を初期化し読み込むには時間が掛かります。


 最大一日程度。


 まさか――――……。




 カン、と持ち主を失った携帯が路上に落ちて跳ねた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る