僕はエクスカリバーの数だけ強くなる

僕はエクスカリバーの数だけ強くなる１

　再び戦場に歩み出た。先程までバカでかく感じられた空間が、やたらちっぽけに見える。懐に潜り込んでスヤスヤと寝息を立てているニャゴ様にも微笑（ほほえ）ましさしか感じない。今から僕と〈エクスカリバー〉の快進撃が始まるんだ。

「兄ちゃん、対戦相手を探しているのかい？　俺が手ほどきしてやろうか？」

　ここに到着した直後に話しかけてきた髭面の大男だった。あの時も親切なフリをしていたけど、もしかしたら、この人初心者狩りじゃないか。

「冗談だよ。デュエル始めたての兄ちゃんをいじめるほど、大人げなくないぜ」

　初心者狩りをするようなデュエラーなら、こちらを甘く見ているかもしれない。

「いや、やりましょう。受けて立ちますよ」

「その目、気に入ったぜ」

　大男が不敵な笑みを浮かべた。一々芝居がかっているのはなぜだろう。大男は見た目からしてカードデュエラーってガラじゃない。世界が作り変えられ、そうならざるを得ない状況に追い込まれたのだろうか。

　大男の戦績は２９勝２７敗。初級卒業間近で千ポイント近い経験値を獲得していた。予想以上の強敵だ。本来なら、全く歯が立たない相手だった。ただ、こちらには虎の子の〈エクスカリバー〉がある。

　　　　　◇

　二戦目が開始された。まずはお互いのデッキを開示する。ユニットに関してはほぼ選択の余地がない。エクスカリバーが装備できるのは剣兵と騎兵のみ。それを念頭に置いて、剣兵２枚、槍兵１枚、騎兵１枚、弓兵１枚の攻撃的な布陣を取る。

　大男のユニット構成は剣兵２枚、弓兵２枚、盾兵１枚と目立った特徴はなし。ただ、初級卒業間近なのは伊達じゃない。全てのユニットにプラスが付いている。

〈鋼の剣〉（攻撃＋２）

〈鋼の弓〉（攻撃＋２）

〈鋼の盾〉（防御＋２）

　アイテムも上記のようなＣランクのものが豊富にそろっている。

　大男は明らかに僕を見下していたけど、〈エクスカリバー〉を目にした瞬間、顔を引きつらせた。目を泳がせるように、必死の形相でこちらのデッキを確認し始める。

「そうか、そういう戦法か」

　大男が見透（みす）かしたようなことを言い、「２枚交換させてもらうぜ」と取り上げたカードを交換した。戦いはすでに始まっていた。心理戦を仕掛けただけの可能性もあり、判断が難しい。

　手持ちのカードがほぼデッキにおさまる自分は右往左往しても仕方がない。ユニットの配置を行う。前衛に剣兵、槍兵、剣兵と並べ、二列目中央に騎兵、後衛中央に弓兵を配置した。

「Ｔ字陣形か。悪くはない……、いや、予想通りか」

　大男の陣形に目を見張った。こちらと全く逆の配置――後衛に三枚並べた、言わば逆Ｔ字の異様な陣形だった。少なくとも、ガイドブックには載っていなかった。

「驚いているようだが、そこまで珍しい陣形じゃないぜ？」

　お互いに配置を終えてユニットを裏返す。大男のユニットを見て、さらに度肝（どぎも）を抜かれた。中央に盾兵三枚を縦に並べ、後衛の両翼に弓兵を配置する、遠距離攻撃特化型の布陣だった。

　攻撃を弓兵だけに頼る？　〈突撃〉なしでやっていけるのかと思ったけど、確か〈鋼の弓〉を持っていたの思い出した。ただ、〈エクスカリバー〉を意識しすぎて、奇をてらいすぎた感はぬぐえない。

「人はこれをＴバック陣形と呼ぶ」

　絶対にもっといいネーミングがありましたよね。

　いよいよデュエル開始。下手（したて）のこちらが先攻。見抜かれていようが構わない。取るべき戦法はただ一つ。〈エクスカリバー〉によるゴリ押しだ。

　１ターン目のドローで予定通り〈エクスカリバー〉が出る。大男はドローした〈鋼の剣〉を即座に廃棄した。剣兵を２枚とも盾兵に交換したため、使い道がなくなったからだろう。

　　自：「剣兵１」に〈エクスカリバー〉を装備

　　対：『弓兵１』で「剣兵１」に攻撃（ダメージ３）

　ドローで確実に〈エクスカリバー〉が出るのがこちらの優位点だ。仮に、装備したユニットが敗走しても手札に戻るため、すぐに使い回せる。

　厄介なのは敵の弓兵に攻撃＋１がついていること。本来なら五回のはずが、四回の攻撃で剣兵が仕留められてしまう。

　　自：「剣兵１」で『盾兵１』に突撃（ダメージ１１）

　　対：『弓兵１』に〈鋼の弓〉を装備

　〈突撃〉を使ったとはいえ、敵の盾兵を一撃で仕留める。さしもの大男も表情をゆがめた。やはり〈エクスカリバー〉の威力は絶大だ。大男はドローした〈鋼の弓〉を装備し、『弓兵１』の攻撃力を５に上げた。

　　自：一回休み

　　対：『弓兵１』で「剣兵１」に攻撃（ダメージ５）

　フェイズ２に入り、最悪のタイミングで先攻後攻が入れ替わる。

　　対：『弓兵１』で「剣兵１」に攻撃（ダメージ５）

　　自：「槍兵」で『盾兵２』に攻撃（ダメージ０）

　〈エクスカリバー〉を装備した剣兵が敗走。１ターンを無駄にした。別の剣兵で〈突撃〉すればダメージを与えられるも、次のターンで行動できなくなる。

　　対：『弓兵１』で「剣兵２」に攻撃（ダメージ５）

　　自：「騎兵」に〈エクスカリバー〉を装備

　「剣兵２」は次ターンで敗走する。再びドローした〈エクスカリバー〉をやむなく二列目の騎兵に装備させるも、大きな誤算があった。騎兵は二列目からでも攻撃が可能だけど、前方にユニットがいない場合に限られる。

　　対：『弓兵１』で「剣兵２」に攻撃（ダメージ５）

　　自：「槍兵」を１マス右に移動

　苦肉の策だった。槍兵の移動に貴重な１ターンを費やす。槍兵の後ろになんか配置するんじゃなかった。〈鋼の弓〉を装備した弓兵と盾兵の連携は想像以上に強力。騎兵に防御＋１が付いているのがせめてもの救いだ。