僕はエクスカリバーの数だけ強くなる

エクスカリバーかついだカードデュエラー４

　今日はもうノルマの１戦をこなしたから、無理にデュエルを行う必要はない。デュエル経験を積みたい気持ちはあるものの、ガイドブックの知識では心もとなく、いたずらに黒星を重ねる結果になりかねない。

　当てどなくラウンジを歩いていると、小型店が軒（のき）を連ねる一画（いっかく）を見つけた。初心者講座５百ポイントと書かれた看板が目にとまったものの、そんな高いポイントは払えない。

　同じ並びにカード工房という店があった。武器・防具を即日カード交換と店先の看板に表示されている。どうやら、本当の武器や防具をカード化できるらしい。

「ニャゴ様、カード工房なる店を見つけました」

「何をするところにゃご？」

「実物の武器や防具をカードに交換できるそうです」

　店舗に入ると、恰幅（かっぷく）のいい中年男性に「いらっしゃい！」と景気よく迎えられた。店内は狭くカウンターしかない。

　側面の壁には『交換できる武器、防具の種類』と題された一覧表があり、剣・弓・盾・鎧などの名前がズラリと並んでいる。ラウンジの外にはファンタジーの世界が広がっているのだろうか。

「試しにそのデカ物をカードにしてみるにゃご」

「えっ、カードにしてもいいんですか？」

「構わないにゃご。この世界では無用の長物（ちょうぶつ）にゃご」

　お荷物と化したエクスカリバーはウエイトトレーニング目的でしか役に立っていない。とはいえ、何時間も肌見（はだみ）離さず持っていれば、自ずと愛着がわいてくるし、旅の仲間のような連帯感さえ覚え始めていた。

　名残（なご）り惜しい気持ちが強く、簡単に手放す気にはなれない。ただ、交換自体がどんな雰囲気なのか、話だけでも聞いてようと思った。

「これは交換できますか？」

　そう言ってカウンターの上にエクスカリバーを差し出す。店員は一目見た瞬間、目を大きく見張って、それをうやうやしく持ち上げた。

「これは……聖剣エクスカリバーじゃないか!?」

「やっぱり、そうなんですか!?」

　エクスカリバーの基準って一体何なんだ。形状？　金ピカに光ってればいいの？

「どこかにそう書いてあるんですか？」

　のぞき込んでみたけど、文字らしきものは見当たらなかった。

「まさか、初級ラウンジでこんなものをお目にかかれるとはな」

「ちなみに、エクスカリバーのカードはどんな感じですか？」

「〈エクスカリバー〉は最高のＡランク。確か、攻撃＋８だったかな」

「攻撃＋８ですか!?」

　剣兵に装備させれば、盾兵以外のユニットを一撃で仕留めることができる。チートレベルのアイテムだ。初級だったら、無双状態になれるんじゃないか。

　でも、本当にカードになんかしていいのか。愛剣を売り払うなんて勇者の名折れじゃ……、いや、現状本領を発揮させられていないし、今後も怪しい。このままだと部屋に飾られたまま、ホコリをかぶることになりかねない。

　むしろ、カード化したほうが武器として本分を全うできるし、パートナーとして一緒に歩むことができる。ただ、一生カードのままっていうのが考え物だ。申し訳ない気持ちになるし、エクスカリバーに顔向けできない。

「カードにしたらどうなるんですか？　それっきりなんですか？」

「このカードを持ってきてくれれば、元の姿に戻せるよ。復元の際は５百ポイントの手数料をいただくけどね」

　もの凄い。一体どんな技術があれば、そんなことが実現できるんだ。

「何を迷ってるにゃご？　さっさと済ませて、早くベンチで休みたいにゃご」

　肩の上のニャゴ様が今にも寝入りそうな声を上げた。

「どうする。交換するかい？」

「お願いします」

　気づいた時には口走っていた。いずれ元に戻せる日が来ると自分に言い聞かせ、一人前になったら必ず質戻しするとエクスカリバーに語りかけた。

　数分後、手渡されたカードは実体と同様黄金色に輝いていた。左上にはＡとデカデカと印字されている。驚くべきはカードの価値を表す右下の数字。１万ポイントと書かれているのを見て、思わず生唾をゴクリと飲み込んだ。