エクスカリバーかついだカードデュエラー1

 目が覚めると、中腰にすらなれない狭苦しいカプセルの中にいた。傍らには黒猫とエクスカリバー。気持ちよさそうに丸まる黒猫を「着きましたよ」と揺り起こす。


「ここが裏の世界ですか?」

「よくわからないにゃご。とりあえず、外に出てみるにゃご」


 カプセルからはい出ると、向かい合った上下二段のカプセルがズラリと並んでいた。一見すれば、カプセルホテルだ。シルバーに統一された無機質な床と壁は近未来感満載で、宇宙船っぽい印象も受ける。


 ただし、自分の服装だけはファンタジーだ。エクスカリバーがしっくりくる、今にも冒険に旅立ちそうな感じの。


「どう考えてもファンタジーの世界じゃないですよね? 場所を間違えたんじゃないですか?」


 黒猫の返答はない。尻尾をピンと立てて、しきりに辺りを警戒している。ここは表と裏の世界をつなぐ中継地点かもしれない。そう思い直した。


 自動ドアを抜けると、だだっ広い吹き抜けの空間が眼前に広がった。ドーム状の屋根からは青空が見え、清潔感のある真っさらなフロアが果てしなく広がっている。どこか巨大空港のような雰囲気があった。


 行き交う人々の大半は同じ銀色のスーツを一様に着用している。SF映画に出てきそうな飾り気のない体にフィットしたものだ。あとはハンドバックくらいの大きさの同じケースを持っている。


 自分だけ中世丸出しの格好をしているので場違い感が凄い。エクスカリバーを持ってるし、すぐにでも警備員が駆けつけてきて連行されそうだ。いや、ここまで時代錯誤だとコスプレ扱いだろうか?


「様子がおかしいにゃご」

「ちょっと話を聞いてみましょうか」


 まだファンタジーをあきらめていない。ここはネトゲのラウンジみたいな場所で、クエストを請け負ってモンスター退治に出発するシステムかもしれない。


「兄ちゃん、新入りかい? ようこそ、カードゲームの世界へ」


 近くを歩いていた髭面ひげづらの大男が突拍子とっぴょうしもない言葉をかけてきた。カードゲームの世界ってどういうことだろう。


「この初級ラウンジに初めて来たのなら、あそこのカウンターで話を聞くといい。ユーザー登録もそこで済ませられるぞ」


 何も言っていないのに、大男はやたら親切に説明してくれた。服装にも驚かないし、入口近くにいて、街の名前を教えてくれるNPC的存在だろうか。


「カードゲームの世界だそうですよ」

「はかられたにゃご。世界を根本部分から書きかえる新種の話を耳にしたことがあるにゃご」


「ファンタジーの世界がカードゲームの世界に作り変えられたってことですか?」

「そうとしか考えられないにゃご。きっと冥王の仕業に違いないにゃご」


 これはこれで面白そうだけど、何か前途多難だ。中央に位置する円形のカウンターに向かって、三人いる受付の一人に話しかけた。


「ようこそ。ここはカードマスターこと冥王様が治めるカードゲーム王国。地位・役職から政策に至るまで、あらゆるものをカードゲームで決める先進的な国家です。そして、ここは駆け出しのカードデュエラーが集まる初級ラウンジとなっております」


 ある意味先進的ですけど、どこの国も追随しないと思います。でも、冥王って話のわかる懐が深い人なんじゃないかとも思った。


「ユーザー登録はお済みですか? ユーザー登録を済ませますと、その場でユーザーカードとスターターパックをプレゼントいたします。また、ユーザーには毎日1パック10枚のカードが支給されることになります」


 黒猫と相談した上でユーザー登録を行うことに決めた。隣のお姉さんからクレジットカードによく似たユーザーカードと、スターターパックと称した初級者用のスーツ、ケース、ガイドブックの一式を受け取る。


「お手持ちのユーザーカードにポイントを貯めることで、ラウンジ内の各種施設がご利用になれます。なお、ポイントはカードの売買などで貯めることが可能です。

 また、一日に一度もデュエルを行わなかった場合や、初級ラウンジ内の宿泊施設のご利用が確認できなかった場合、翌日の支給が半分となります。

 さらに、初級ラウンジから外へと出られた場合、ユーザー登録が抹消されますのでお気をつけください」


 一旦ユーザー登録をすると、初級ラウンジから一歩も出られない仕様らしい。缶詰状態でカードデュエルの日々を送らないといけないのか。常軌じょうきいっした設定だ。


 念のため、宿泊施設を確認してみたところ、僕らが目覚めたカプセルホテルが最安値で、料金は1千ポイントだった。


 ロッカールームで初級者用のスーツに着替え、元々着ていた衣服は全てロッカーに預けた。エクスカリバーは入らなかった。


「そういえば、何て呼べばいいですか?」

「名前は決めてないにゃご。好きに呼んでいいにゃご」


「じゃあ、ニャゴ様なんかどうですか?」

「それで構わないにゃご」


「ついでに猫の姿をしている理由も教えてください」

「深い意味はないにゃご。神のエージェントでも生命として一から始める必要があるにゃご。人間であるのに越したことはないと思ったにゃご。でも、人間は自由な行動がとれるまで時間がかかり過ぎるから除外したにゃご」


 俗に言う世を忍ぶ仮の姿ってわけか。中の人はどんな人なんだろうか。大人の女性であるのは間違いなさそうだけど。

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