第三章 もうひとりの吹奏楽部員 3 進路 5

 直は学園祭の練習で必死だった。コンクール以外の曲が初めてだったのもあるが、頼っていた凛が進学で忙しくて今までのように練習を見てくれなくなったためである。他のパートは二年生がいるから今まで通り練習を見てくれるが、フルートパートは直ひとりだから心細かったが、自分なりにやる以外なかった。


 凛が練習に来た。いつもなら顔だけ出してすぐに部室を出て行くのに今日は最後まで練習すると言った。


 直はこのごろ気になっていた。凛の顔色が冴えなかったのだ。進学で悩んでいると思い、理由は聞かなかった。

〈あれ?笑っている〉直は思った。

「おはよう、直、どう?練習進んでる?」凛がニコニコして聞いてくるのが何だか気持ち悪かった。

「あ、はい、なんとか頑張ってます。凛先輩はどうなんですか?」

「うん、音大受ける方向で準備しているよ」

「そうなんですかあ、いいなあ。でも」

「でもなに?」

「お医者さんの凛先輩もかっこいいかなって思って」

「そう、直はそう思ってたんだ。私は音大出てソリストになるか、教師になりたいと思っているの、そっちもかっこよくない?」

「あ、そ、そうですね。かっこいいです!」直があわてて凛にあわせた。

「今日は一緒に練習しようか!しごくわよ!」

「はい!すぐに支度します!」

 中庭に行く支度をしている直を見て凛は思った。

〈お医者さんの凛先輩かあ…〉


 直のひとことが妙に心にひっかかった。

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