第三章 もうひとりの吹奏楽部員 3 進路 1
3 進路
吹奏楽部は二学期になると10月の学園祭で演奏する曲の練習が中心となった。
ただし三年生は進学や就職の準備に力を入れることになるので部の運営は二年生が中心になる。
美津と凛は大学に進学することを決めていた。
美津は早くから志望校を絞っていたが凛は迷っていた。凛の両親は長男同様、医学部への進学を強く希望していたが、医者になる気持ちの無い凛は、音大への進学を決めていた。
凛はその夜、両親と進路についてリビングで話し合った。
「凛、音大出たって音楽で食えるのはほんの一握りなんだぞ。フルートなら医者の仕事しながらでもできるだろう」父の朝倉敬三が言った。
「お父さんの言う通りよ、凛。わたしたちはあなたが音楽を好きなことは理解しているわ。やめろとは言ってないのよ。医学の道だってどうしても嫌なら理系とか就職に有利な大学に行って欲しいのよ」母の朝倉美代もつづいた。
「お父さん、お母さん、私のために言ってくれているのはよくわかってる。それは感謝しています。でも私はもっと音楽を勉強したいの。学費なら奨学金もあるし自分でアルバイトしても工面するわ、だから」
「簡単に言うんじゃない!お前はお金を稼ぐ苦労を知らないからそんな事言えるんだ!」
敬三が怒鳴った。凛が首をすくめた。
「凛、自分で学費をなんとかするから好きにさせて、じゃないでしょう。お父さんもお母さんもあなたのこれからのことを真剣に考えているから言ってるのよ」
「とにかく、音大に進むのは賛成できないな。まだ時間はあるからようく考えなさい」
「わかりました」
両親はリビングから寝室に行き、凛も自室に入った。
凛は机の中から通帳を出し、残高を見た。
普段から無駄遣いをしない凛だった。30万近くが貯まっていた。
だが音大進学のためには程遠い額だった。今からアルバイトしても間に合わない。奨学金も結局両親の許可が無ければ下りないのである。
凛はベッドに寝転んで天井を見上げた。
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