第三章 もうひとりの吹奏楽部員 2 浩子 11

「うん、血液の病気らしいんだけど、まだ知らないんだって。もう一年も入院してるけど寝てばっかりだって」

「そうなの。お金もかかるし、家族の方も大変ね」

「血液の病気だったら、白血病かな?」総司が直を見て言った。

「お父さん、それって大変な病気なの?」直が箸を置いた。

「昔は不治の病の代表みたいな病気で、ドラマとか映画でヒロインが死ぬときはこの病気が多かったな」そこまで言うと直が泣きそうな顔をした。

「いやいや、昔の話だよ。今は医学の発達でそうでもないみたいだぞ」総司があわてて否定した。

「直は加羽沢さんに初めて会ったのね」真奈美が言った。

「そう、浩子先輩って凛先輩と美津先輩とおんなじで、強そうだった」

「それはどうしてわかったの?」

「そうだなあ、目かな?あと病気してると思えないくらいしっかり話してたよ」

「直もそういうところ感じるようになったのね」

「それとね、凛先輩と美津先輩と浩子先輩って、なんなのかなあ、強いもので結ばれているなあと感じたよ」

「それを友情って言うんだよ」

「お父さん!すごい!そう、そう思ったの」

「直、お父さんはお前より28年も永く生きてんだよ!それくらいわかるさ」

「大人の世界でも友情はあるの?」

「そりゃあ、あるさ。でもなあ友情より蹴落としあいの方が多いかな?ライバルだらけのそれだけ厳しい世界なんだよ。だから…」

「だから直は今のうちに友達と友情を育てなさいって言いたいのよ、ね、お父さん?」

「お母さん!いいところだけとるなあ」

「フフフ」直は笑顔になっていた。



 風呂から上がった直は自室で宿題をしていた。

「はいるわよ」真奈美が入ってきた。

「お父さんは?」

「明日から出張だから早く寝たわよ」真奈美は直のベッドに腰掛けながら言った。

「そう」

「直ちゃん、帰るなり泣き出したからお母さんちょっと心配だったけど、大丈夫?」

 直は椅子を回して真奈美と向かい合った。

「うん、心配しなくていいよ。先輩たちの友情に何か感じたのかな?いいなあって」

「そう、なら安心した。直ちゃんもこれからいっぱい感じる事あると思うわ、友情を育むことも大事だけど、信じていた人に裏切られる事もきっとあるわ」直が不安な顔をした。

「それでも負けちゃだめよ、乗り越えてこそ強くなれるのよ」

「そうかあ、でもやだなあ」

「乗り越えるために本当の友達がいるのよ、もちろん直も友達のために力になれる、そうあってほしいわ」

「うん、何だかわかんないけど忘れないよ」

「そうね、宿題終わったら早く寝なさいね」

「はあい」真奈美はそう言うと部屋を出た。

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