第三章 もうひとりの吹奏楽部員 2 浩子 10

 病院の帰りに寄ったミスドで直は凛と美津の会話を黙って聞いていた。

「ヒロにコンクールの動画観せたの良かったのかなあ」美津がアイスティーのストローをカラカラかき混ぜながら言った。

「そうだねえ、観た後ちょっとさみしそうにしてたよね、でも間違いでは無かったと思ってるよ。だってずっとベッドの上でただ、病気が良くなるのを待つだけの毎日なんて変化が無くて辛いじゃない。ヒロは私たちから忘れられるのがいちばん嫌だと思うよ。だから顔だけでも見せてあげるのが何よりも嬉しいと思う。今日の直の動画、本当はコンクールにも出たかったらさみしくて当然よ。でもね、それ以上にうれしかったと思ってる」

 直は自分が何か悪いことしたみたいに思った。顔に出た。感の良い凛がそれを素早く感じた。

「あ、直は自分が悪いなんて思っちゃダメよ」

「あ、そ、そうですか。私も浩子先輩がさみしそうな顔したから、ちょっと悪かったかなあと思ったんですけどお」

「ううん、大丈夫。だってヒロだってコンクールのことは知りたかったはずよ。できることなら観に行きたかったと思うわ。だから、動画を観てもらったのは正解よ!そりゃあ出たかったんだもん、さみしく思って当然よ」

「そうかあ、良かったです」直の顔がほころんだ。

「ヒロ、私たちが卒業するまでに退院できるといいね」美津が言った。

「あの子は強いよ、きっと治るよ!」凛が言った。

「そろそろ進路決めたりや最後の学園祭もあるけどヒロのことは応援していこうね!」美津の言葉に凛が頷いた。

 直はその会話を聞いて、友情ってこれなんだと思うと何だか胸が熱くなった。

 凛と美津と別れてひとりの帰り道、直は心が満たされていた。何だかわからない感情、今日は浩子先輩に会って良かったなあと思った。

 玄関で真奈美の顔を見た途端、熱い想いが涙となってあふれたのだった。


 二階から降りると夕食の用意がされていた。

 梢家のダイニングは広くて、カントリー調の四人掛けのダイニングテーブルが真ん中にあった。

 家族は三人だから一つ空いているが、来客があったり総司の父のつくるが度々くるのでそのためでもあった。総司と真奈美が向かい合い、直は真奈美の隣が定位置だった。

 高校生の年頃になると父親が疎ましい存在になる場合が多いが、直は総司のことが大好きだった。

 今日は総司も定時で帰ってきていたので三人揃っての夕食になった。

「直、すまん、いつもの頼むよ」

「お父さん、飲み過ぎはダメだよ」そう言って冷蔵庫からビールを出してくるのがいつもだった。真奈美はあえて自分から夫のビールを出さないのだ。

 梢家では食事中にテレビはつけない、スマホをいじるのも禁止にしている。家族の会話を大事にする真奈美の方針であった。

「直、加羽沢さんはどうなの?」真奈美が聞いた。

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