第三章 もうひとりの吹奏楽部員 2 浩子 4

「すごいね、これ」

 美津と凛は直のスマホでコンクールの録画を観ていた。

「お父さん何でも凝っちゃうんですう。このカメラだって勝手に買っちゃってお母さんと大げんかでしたよ」

 直が苦笑いしながら言ったが、美津と凛に観てもらってうれしかった。

「直んち、みんな仲よくてうらやましいな」

 凛がさみしそうに言った。直は笑うのをやめた。

「美津、これいつヒロのとこ見せに行く?」凛が話を切り替えて美津に言った。

「そうだねえ、直の都合もあるしさ、なにより病院だから検査とかご飯の時間にぶつかったらだめじゃない。でも早いほうがいいよね」美津が言うと凛が気づいたように

「あ、明日の放課後、職員会議だから部活ないよ」

「そうそう、明日ならいいね。直は?」

「わたしは全然オッケーですよ」

「じゃあ、ちょっとヒロにメールしてよ」美津が言うと凛がスマホを出してメールを打った。





「うーん」

 カンファレンスルームで光代は内科医の朝倉から説明を聞いていた。

 朝倉は浩子の血液検査の結果を見て眉をひそめた。

「はっきり申し上げて数値が改善されていませんね」

「先生、浩子は…」光代の顔が青くなった。

「おかあさん、白血病は今では死の病ではありません。ただ、娘さんのタイプは特殊なのかな」

 朝倉はさらに苦悩の表情を見せた。

 その表情を見て光代は〈もう娘は長くないのかも〉と勘ぐった。

「おかあさん、ただ娘さんはこの1年良くもなってなければ悪くもなってないのですよ」

「ええ、病人とは思えないほど元気ですもの」

「おそらくこのままでは何らかの病状が出ると思います」

「先生。骨髄移植はどうなんですか?この間私たち家族の血液検査もしましたよね」

「それですが、残念ながらどなたも型が合いません。骨髄バンクにも登録してますが今のところ合う型が現れていないのです」

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