第三章 もうひとりの吹奏楽部員 2 浩子 2
「私と美津と同じ三年生のクラリネットに加羽沢浩子という子がいるの」
「はい」直は小さくうなずいた。
「彼女は今、県立病院に入院してるの。もう一年近くなるかな」
「え、そうなんですか」
「去年のコンクールが終わって、学園祭に向けての練習が始まった時、浩子が「気分が悪い」と医務室で休んだことがあってね、その時は疲れかなあとか言ってたわ。でも小林先生から病院で診てもらえと近くの内科で診てもらったけど、単なる疲れじゃなさそうと紹介状書いてもらって県立病院に行ったの」
「はい」
「そうしたら即入院になったの」
「そうなんですか。それで、何の病気なんですか?」
「それはね浩子にも聞いたんだけど、なんだか血液の病気らしいけど、それ以上は彼女も聞かされてないみたい」
「それと父にも聞いたけど、患者の情報はたとえ友達のお前にも教えられないって怒られたわ」
「あ、そうか。凛先輩のお父さん、県立病院のお医者さんでしたね」
「浩子も入院してもう長いけど見た目は元気なのよ、あんたほんとに病人?っていうくらい」
「部活ももちろんだけど、何より学校に行けないのが辛いと思うわ」
「そうですね」
「あーあ、この間のコンクールも見せてあげたかったな」凛がため息をついて下を向いた。
「先輩!それなら見せてあげられますよ!」直が思い出したように言った。
「え?」凛が顔を上げた。
「うちのお父さんがコンクールをビデオに録ってるんですよ」
「ほんと!」凛と美津が直に詰め寄った。
「ええ、お父さんビデオカメラも凝っていて、出たばっかりの4Kだとかいうので録ってました」
「へー、そりゃすごいわ。でもどうやって見せる?」凛が聞いた。
「私のスマホにお父さんが入れてくれてるんですう。これ見せましょう!」
「そりゃ簡単だわ。じゃあ今度直もお見舞い行こう!」
「いいんですか?嬉しいです!」
三人が楽器倉庫できゃあきゃあ言ってると和田音が覗いてきた。
「あ、盛り上がってるところ申し訳ないんですがあ、バスドラ出したいので」
「あ!きゃあもうこんな時間だわ、練習練習!」三人が慌てて倉庫を出た。
「直、練習終わったらその動画見せてよ!」美津が楽器を抱えて直に言った。
「わかりましたあ!」
「さ、直、気持ちを切り替えて練習練習!中庭行くわよ!」凛が言った。
「はあい!」
明るく返事をした直だったが、心の隅では、会ったこともない加羽沢浩子のことが気になっていた。
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