第二章 吹奏楽コンクール 10 コンクール本番 3

 直にとっては初めての結果の銀賞が、いいのか悪いのかわからなかったので黙っていたが、部員たちはパチパチと拍手で応えたのでそれに合わせた。


 結果発表が終わり、代表校の発表があった。


「代表校は県立第二高等学校と水谷学園に決定しました。代表の皆さん、頑張ってください!」


 ようやく長いコンクールの一日が終わった。


 直は凛と一緒にホールを出たが凛は無言だった。


 ホールの外ではOBたちが待っていた。拍手で迎えてくれた。


 桜智美が凛のところへ来た。

「りんちゃーん!お疲れ様!」

 凛は桜の顔を見た途端、両手で顔を覆い泣き出した。

「桜先輩、今年も金賞ダメでした、ごめんなさい!」


 どうすることもできない直は後ろで見ているしかなかった。


 桜智美はハンカチで顔をおさえる凛を抱きしめた。

「りんちゃん、あなたはがんばったわ。私が聴いても今日の演奏は完璧だったよ」

「でも、先輩との約束、私は守れませんでした」

「そんなことないわ、あなたが叶えられなかった約束、あなたの後輩の梢さんがきっと叶えてくれる」そう言って桜智美は直を見た。


 直は「え?わたし」と言いたげに自分を指差した。


「その時まで、わたしとの約束は終わらないわ」

「梢さん、わたしとりんちゃんとの約束、あなたが叶えてね」

 そう言うと桜智美は直の両肩をぎゅうっとつかんだ。

 その時の桜智美の目は凛以上に力強かった。


 直は「はいっ」とうなずいた。


 県立第三高等学校吹奏楽部のコンクールは終わった。


 夕方の優しい日差しが彼女たちをねぎらうように包んでいた。

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