第7話

「ほんの少しだけ。でも、ここに来るまで忘れてました。」


「まあ、昨日はアルルの花粉を思う存分吸い込んだからねぇ。…………さて、とりあえずここでお話しようか?」


草原と森の境目にある、小さな木造の小屋。


古そうではあるがカーテンの隙間から何かの光がチラチラと見え隠れしていて、誰かがいるようだ。


「さぁ!入った入った!」


トロイカさんに背中を突き飛ばされる。


勢いで扉にぶつかるかと思ったら、手が触れた瞬間に開いて衝突を免れた。


「いらっしゃーい。」


中に居た男の人がにこりと微笑んだ。


僕とファティマスさんとトロイカさんが室内に入ると、家主がマスクを外すようジェスチャーをした。


僕は戸惑ってファティマスさんの方を見たら頷きを返された。


マスクを外してみる。


「やはり、この緊急用マスクでは完全に防ぐのは無理ですね。まだまだ改良の余地がありそうです。」


そう言いながら僕に近付いてきて、顔を覗き込みながら何かスプレーのようなものを吹き掛けられた。


一体、何をされてるんだろうか?と思っていたら、突然、玉葱を刻んだ時みたいにすんごく涙と鼻水が出てきた。


「な、何するんですか!」


慌てて逃げようと、扉の方に走る。


ってか、知らない人たちから早く逃げないと!


僕は完全にパニック状態になっていて、引っ張っても開かない扉を叩いたり押したりを繰り返した。


「これこれ、ちょっと落ち着きなさい。僕は、今君の身体からアルルの花粉を抜き取っただけなんですよ?深呼吸、深呼吸。話を聞いてから逃げるのでも間に合いますよ?みんな丸腰なんですから。」


そう言われて三人を見てみると、確かに武器になりそうなものは持ってなさそうだ。


僕は扉の前に立ったまま、深呼吸をした。


「まずは、坊っちゃんに警戒心を解いてもらうために、自己紹介とか雑談とかしようか。坊っちゃん…………トマリだったかな?少し話を聞いてはくれないか?」


「あ、ああ…………聞いてみます。」


断らなかったのは、三人ともがすごく申し訳なさそうな顔をしていたから。


「ごめんよ。僕がもっと安心できる状況にしてから、花粉を抜き取ればそんな混乱しなくて済んだのに。僕は、トーナと言います。」


ぼんやりとしていた頭がすっきりしていて、涙も鼻水も止まったので、三人を一人ずつ観察していく。


トーナさんは背が高くてほっそりした、女の人のように色気のある顔立ちをした男の人。


長い輝く銀髪がとてもサラサラしているように見えて、触ってみたくなる。


「俺らも説明を後回しにして連れてきたからな。俺の名前覚えてっか?トロイカだ。」


僕は頷いて見せた。


トロイカさんは見えてる腕とか首の筋肉がすごいから、きっと見えてない胴とか脚とかも凄いんだろう。


小麦色の肌と短い黒髪がとても爽やかな感じだ。


目付きも口も悪いが、そこまで悪い人には見えなかった。


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