第6話

「おい、またアルルにやられてるみたいだぞ!」


男の声。


何だか、聞き覚えがある気がする。


「大丈夫だよ、こうなると思って花粉症対策の特別なマスク手に入れてきたから。」


聞き覚えのある女の声が自信満々に答えている。


「坊っちゃん、ちょっと失礼するよ。」


目の前に若い女の人の顔が近付く。


僕は声より若くて綺麗な人だな、とぼんやり思いながら眺めていた。


すると、いつの間にか口の辺りに違和感が。


「坊っちゃん、少ししたら持ってかれた心が少しずつ戻って来るからね。」


「もしかして、それまでここで待たなきゃいけないのか?」


「そうよ?そうしないと、あんたがこの子をずっと担いで行かなくちゃいけなくなるわよ?待つ方が楽じゃない?」


「確かにそうだけどよ!あぁ!めんどくせぇ!」


僕はそんなやり取りを耳に入れながら、草原を眺めていた。


草原もやっぱり何だか見覚えがある…………


頭の中に少しずつ混乱という現実が戻って来はじめた。


…………ここはどこなんだ?この人たちは誰なんだ?テレビの中は人が入れるようになっていたのか?


その、少し戻ってきた混乱を抑えようと本能が二人を交互に見る。


「…………あんたたちは誰?」


「んぇ?」


僕の質問に、男の人の方が間抜けな声を出す。


「坊っちゃん、自分の名前言えるかい?」


「…………泊 鳴滝。」


…………自分の名前くらい言えるよ。子供じゃないんだから。


そう突っ込みを口に出そうとした瞬間、僕は女の人に抱き締められていた。


「良かったね~!アルルの花粉症は軽かったら心を持ってかれるだけだけど、酷いと魂まで持ってかれるからね~!」


「えっ!?んな重大なこと聞いてねぇぞ!」


男の人が、目を真ん丸にして驚いている。


「言ってないもん。でも、無事だったからどうでも良いじゃない。私、ファティマス。」


無邪気に笑う女の人。


このやり取りで、僕は何となく女の人の方が怒らせた時は恐ろしいという事を理解した。


「…………俺は、トロイカだ。」


男の人は憮然とした表情でそっぽ向いている。


「さて、いろいろ説明したいところだけど、ここじゃ座る場所も何もないからとりあえず別の所に行こうか?歩ける?」


「あ、はい。大丈夫です。」


まだ、ぼんやりした感覚が抜けきれてない僕は何の抵抗もなく従う。


訳の分からない場所で訳の分からない人たちと喋ってる事にそう驚く感覚もない。


「坊っちゃん敬語使うんだね~、嬉しいわ~あの小娘とは大違い!」


歩き始めたファティマスさんのとても嬉しそうな喋り。


よほど、敬語を使われなかった事が嫌だったのだろう。


「その小娘って、昨日お二人と一緒にいた人ですか?」


「そうよ。昨日の事覚えてる?」


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