第5話

「泊、今日は遅かったな。」


坂田が朝のホームルーム直後の休み時間に僕の席までやって来た。


僕はホームルーム真っ最中に教室に来たのだ。


前は後ろを向くだけでお喋りが出来てたから、今は不便だな~とぼやいていた。


「あぁ。自転車事故に巻き込まれてな。」


僕はぼんやりと返事を返した。


「自転車事故!?そりゃ、大丈夫だったのか?」


坂田のすごく驚いた声を笑ってやった。


「大丈夫だったよ。怪我も何もない。ってか、おかしいんだよな…………あんなすごい勢いで走ってきた自転車が何で僕は全くぶつからなかったんだろ?」


「はぁ?自転車がぶつかる前に避けてくれたんだな。良かったじゃないか!」


「…………いや、違うみたいなんだけど…………」


僕は小さな声で否定したが、坂田は嬉しそうな顔で「良かった、良かった」を繰り返していて聞こえていないようだ。


僕もあの時のことはよくわかってなくて説明できる自信がないので、話すのをやめた。


「そう言えば、今日もテストだったよな?」


突然、話題を変えてきた坂田に思わず顔を上げる。


それから、周りを見回した。


確かにクラスメイトたちが、教科書やノートを広げて勉強をしている。


「そうみたいだな。それより────」


相変わらず、僕と坂田はテスト勉強をしない。


ギリギリでどうにかなるもんでもないんだから。



────



今日も僕は一人で帰っている。


坂田のやつがまた三笠さんから頼み事されてデレデレしていたのを思い出す。


不貞腐れて歩いていると、不意にお腹が空腹を訴えた。


…………ファミレスにでも寄ってから帰ろうかな…………


そう考えて、帰るのとは違う道に入る。


「晩飯のこと考えたら、ちょっとしたもんだろうけど、けっこう腹減ってるから普通にガッツリ食っても大丈夫そうだよな…………」


そう呟いていると、足が何かに掴まれたように重くなった。


え?と思って足元を見ても何もない。


気のせいかと思ってまた歩き出したら、足が何故か違う方向に進みだした。


抵抗しようと思うのに、足だけが違う人の物のようになっていて力さえも込められない。


足は勝手に歩いて行って、自分の家に戻ってきた。


どうなってるのか分からないまま、更に手まで勝手に動き出して家の中に入っていく。


それから、リビングに入ってテレビの前で鞄を放った。


もちろん、これも自分がやったわけではない。


どうにも出来ないまま、足先がテレビ画面を触る。


爽やかな風に擽られる感覚だけが自分のものとして感じる。


それから、まるで段差を乗り越えて部屋に入って行くかのように、抵抗も何も感じることなく身体がテレビの中に入って行った。


何だか、急に頭がぼんやりし出す。


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