第3話

「この子もだな。」


男の方が手を伸ばして僕の腕を掴んだ。


僕は呆然としたまま、完全に抵抗することを忘れていた。


男が僕を連れて、女が先程からいる女の子を連れて歩く。


何だか、頭に霞がかかったかのようにぼんやりしている。


自分がやって来た方向には、テレビの枠だけが腰の高さ辺りに浮いていた。


「お前、歳は幾つだ?」


男が言葉を発する。


「おい、聞いてるのか?」


僕の肩が揺すられて、ようやく自分に話しかけられている事に気付いた。


「もしかしたらアルルの花粉にやられてるのかもしれないよ。」


「アルルで何かなるやつがいるのか?」


僕はぼんやりと二人のやり取りを耳に入れながら自分の歳を考えた。


…………自分の歳、自分の歳…………


誕生日が頭に浮かんで、その時のケーキの真ん中のチョコプレートに16という数字があった事を思い出す。


「…………16」


重たい口を懸命に動かしてみる。


「喋った!お前、歳は16なんだな!」


「ほら、やっぱり、この子アルルにやられてるよ。焦点が定まってないから。」


「んじゃ、アルルの咲いてない所に移動するしかないな。って、アルルの咲いてない所なんて何処にあるんだよ!」


困った声で叫びだした男。


「もう、説明とか諦めてやっちゃうしかないんじゃない?」


「しゃあねぇな!」


…………やっちゃう?って?


…………殺されちゃうってこと?


僕は危機感も感じず、ぼんやりとその言葉を反芻していた。



────



それから後の事は全く覚えていない。


何か、いろいろあったような気がするだけ。


そして、一緒に連れてかれた女の子とも何か少しだけ喋ったような気がする。


それから翌日の朝、僕は何事も無かったかのように爽快に目覚めた。


朝からいつもよりお腹が空いててご飯をおかわりしていると、お母さんが僕のところに来た。


「ナル、あんた、大丈夫なの?」


「え?何が?」


「何が?じゃないわよ!昨日、テレビの横に倒れててすごく心配したのよ。普通に気持ち良さそうに寝てるだけみたいだったから、布団に運んでもらって寝かせたのよ。…………何にも覚えてないの?」


僕は首を横に振った。


昨日は、テストがあって席替えがあって昼に購買で買ったメロンパンとウィンナーパン食べて…………暇さえあれば休み時間とかずっと坂田といつものように喋って…………


順番に思い出していく。


それから、坂田と一緒に帰れなくて一人で帰ってきたらリビングから変な声が聞こえてきて…………


そこまでは覚えているのに、そこから先は濃い霧が頭の中にかかっているように思い出せない。


何か不思議な事があったような気はするのだが…………


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