第2話

帰り道、僕は大きな溜め息を何度も繰り返していた。


その原因はテストが全然解けなかったからではない。


それは最初からやってないのだから、解けなくても仕方ないのだが…………


帰りのホームルームの時間に、席替えがあってとても嫌な席に決まってしまったのだ。


最前列の真ん中、つまり先生の真っ正面。


授業中に外を眺めることも、サボることも難しい席なのだ。


今日までの窓際の一番後ろという一番人気の席が恋しい。


溜め息は止まらない。


坂田とも離れてしまい、両隣はほとんど喋ったことのない奴ら。


そして、いつも一緒に帰っている坂田が隣の席になった三笠さんという大人しい女子に頼み事をされてどこかに行ってしまって、一人で帰っている。


何だか面白くないことばかりで溜め息は止まる気配がなかった。



────



「ただいま~」


家に着いて、返事のない空間に挨拶をする。


それはもうただの習慣としてやってるだけだ。


と、リビングの方から何かの音が聞こえてきていることに気付いた。


…………もしかして、泥棒?


心臓がドキドキし出す。


そして、このままダッシュで外に逃げようかと考えてしまう。


しかし、これが泥棒かどうか確認しとかないともう大丈夫かな?で帰って来ることも出来ない。


警察に連絡とかは出来るだけしたくないので、そんな考えを巡らせる。


いろいろ考えている僕の耳に、今度は声が聞こえてきた。


それは、一人のものではなかった。


男、女、子供…………


幾つもの声が聞こえる。


泥棒がそんな大勢というのは有り得ないので、泥棒ではなさそうだということはわかってホッとした。


しかし、それなら一体誰たちがリビングに居るのだろうか。


とりあえず、リビングを見に行くことにする。


僕は、ゆっくりとリビングに向かった。


そして、覗いたリビングには…………


草原が広がっていた。


正確には、リビングのテレビの中にだが。


いや、テレビがテレビではなくなっていたのだ。


テレビの画面部分がなくって、中がとても広大な草原。


その草原の中で、おじさんおばさん小さな子供が談笑していた。


「あ?え?」


僕はそれが信じられなくて、テレビ画面に手を伸ばす。


画面のガラスが僕の手を遮ることはなかった。


草原を駆け抜ける心地よい風が僕の腕を撫でる。


「あら?あなたは?」


向こう側の女の人が首を傾げて訊ねてくる。


テレビの向こうから話しかけられたことに驚き戸惑って、返事をできない。


僕の頭は対応しきれてなくて、まだその光景をテレビの中のものだと認識しようとしている。


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