第10話 登校~放課後
七海はあれから黙り込んで俺の後を歩いてきていた。
途中で予鈴がなり始めて走って教室に向い、席に付いても隣の七海は俯いたままだった。
「七海、どうしたんだ?」
俺が心配になって七海に声を掛けるとボソボソと何かを喋っていた。
「初めてじゃないのになんであんなにドキドキするんだろう」
「良く聞こえないぞ、言いたい事があるのならはっきり喋ったらどうなんだ」
「本当に、なんでもないんだってば」
そこに俺と七海より遅れて望が教室に滑り込んできた。
「セーフ。真琴、おはよう」
「おす、望」
「今日の放課後、遊びに行くから宜しくな」
そんな事を言いながら望が親指を立てながらウインクしてきやがった。
何が男の部屋に遊びに来て楽しいのだろうと思いながら「はいはい」となま返事をした。
教室に担任の新屋が入ってきてホームルームが始まり、七海と望との会話が途切れたけど、授業が始まる頃には普段の七海に戻っていた。
昼休みになり購買のパンと牛乳で食事を済ませ、机に倒れこんで寝ているとツンツンと誰かが俺の脇腹を突っついた。
俺が顔を上げるより早く窓の外を見ていたはずの七海が気付いた。
「あれ、雪菜ちゃんどうしたの? マコちゃんに何か用なの?」
「どうしたんだ? 雪菜じゃないか」
起き上がると横に雪菜が立っていた。
雪菜は無表情だったがあの冷たい視線は跡形もなくなっていた。
「昨日はありがとう、私も行きたい」
「私も行きたいってどこにだ?」
「真琴の家」
相変わらずの抑揚の無い声で喋るこの電波&天然系の雪菜は何で望が今日俺の家に遊びに来る事を知っているんだろと考える。
もしかして……少し怖い事が頭を過ぎる。
「やったー、是非ご一緒に!」
無駄にでかい声で望がそう言いって飛び跳ねやがった。
元凶はコイツだ、そんな事を思っていると俺の肩がゴキゴキと悲鳴を上げた。
「痛たたたた……な、七海さん?」
「いつの間に私の大切な友達の雪菜ちゃんと仲良くなったのかな? マコちゃん?」
そう良いながら七海が俺の肩を鷲掴みしながらこめかみをピクピクと引き攣らせている。
「七海、駄目。昨日、不良に絡まれているのを真琴に助けてもらった」
「えっ、そうだったんだ。何でマコちゃんは言わないかな。もう、馬鹿」
七海が訳も判らずに俺の頭を小突いた。
そんな事をしていると予鈴がなってしまった。
放課後になり俺と望、雪菜の3人で帰り道の途中にあるコンビニで飲み物とスナック菓子などを買って俺のマンションに向う。
七海はどうするのか一応聞いたのだが保健室に用事があるからと、早々に断られてしまった。
「そう言えば、月ノ宮の家も確か山の上だよな」
「そ、そうなのか?」
この時、初めて事の重大さに気付いた気がしたが。ここまで来てしまったら引き返す訳には行かず腹を据えることにした。
マンションに着くと雪菜の頭の上に? マークがいくつも浮かんでいるのに気が付いた。
七海は大切な友達と言っていたくらいだから恐らく七海の家に遊びに来た事があるのだろう。
部屋に入り鞄をベッドの上に放り投げる。
ミィーはまだ帰ってきていないようだった。
「へぇ、ここが真琴の部屋か」
「適当に座ってくれ。それと望、あまりガサ入れみたいな事するなよ。お前が考えている様なものは無いからな」
望は俺の言葉など無視して部屋を覗きまわっていた。
雪菜はテーブルの横に座り部屋の中を見ていた。
「おかしいぞ」
「何がおかしいんだよ」
「女の子の残り香がするんだけど」
おかしいのはお前の鼻だ。犬並みの嗅覚でもあるのかと心の中で思わず突っ込んでしまった。
雪菜を見ると何故か天井を見渡していた。
「何も居ない」
「雪菜、ここに居るけどな」
「うふふ、真琴は面白い」
「ま、真琴も電波系なのか?」
笑えない冗談やくだらないお喋りをしているとアッと言う間に夕方になってきた。
出来る事なら七海が帰って来るまでに望を追い出そうと考えているとベランダから七海の声がした。
「あ、皆まだ居るんだ」
終わった、その時は本当にそう思った。
雪菜は嬉しそうに七海に手を振っていて、望はマイナス200℃の液体窒素で瞬間冷凍したみたいに凍り付いている。
「今、お茶入れてくるね」
七海が自分の部屋に駆け込むと望が我に返り俺にヘッドロックをかけてきた。
「おい、真琴。これはどう言う事なんだ? 藤高の七不思議のひとつの男嫌いの3大美女の内、2人までがお前の側に居るってどう言うことなんだよ?」
「痛いから、離せよ。望が何を言っているのか俺には判らないよ」
いきなり藤高の七不思議だの男嫌いの3大美女と言われても俺は藤高に転校してきたばかりなのだ。
「よし、俺がレクチャーしてやる。そもそもここで重要なのは男嫌いと言う点だ。まずはこちらにいらっしゃる電波系美少女・星合雪菜嬢、そして悔しい事に真琴のお隣さんのスクリームプリンセスの月ノ宮七海嬢。そして取りは我が校の生徒会会長スノーフェアリーの神無崎亜弥かんなざきあや嬢だ。ここからが重要なんだ……」
なんだがどこかのキャバクラの二つ名みたいだな、などと思いながら望のレクチャーやらを聞く事にする。
雪菜は相変わらず?マークを量産していた。
まぁ雪菜はこの性格が災いしているのだろう。
七海は俺に関しては男嫌いなんて感じは全くしない、俺を男と見ていなければそれはそれで問題なのだが。
生徒会長とはまだ会う機会が無いので少し生徒会長に付いて質問してみる。
「なぁ、望。生徒会長の『スノーフェアリー』って『雪の妖精』という意味だろ。なんだかイメージが湧かないんだが」
「ふっ。甘いな、真琴は。『スノーフェアリー』は『雪女』と言う意味もあるんだよ。睨まれただけで凍りつくぞ。美少女研究会(非認可)の俺が言うのだから間違いない」
「へぇ、そうなんだ」
あまり突っ込みたくな言葉が出てきたので聞き流した。
そんな望の役に立ちそうに無いレクチャーを聞いていると七海が人数分の紅茶を入れてきてくれた。
「うぉぉ、月ノ宮さんが入れてくれた紅茶は絶品です」
「ありがとう。変な人」
「うぉぉ、これは認識を改めねば」
望が1人だけ盛り上がり。
しばらくしてから遅くなるといけないからと2人を帰らせ、もちろん望には雪菜を襲うなよと五寸釘を突き刺しておいた。
溜息をつきながらベッドに寄りかかると七海がカップを片付けながら話しかけてきた。
「友達できて良かったね」
「ああ、みんな優しくしてくれるからな。ありがたいよ」
「私もずっと友達だよ」
「そうだな。ずっとか」
七海にそんな事を言われて少し動揺してしまった。
これはゲームで、ゲームはいつか必ず終わる。
その時、俺達はどうなってしまうのだろうゲームクリアー出来るのかさえわからず。
タイムオーバーすればそれは即ゲームオーバーになってしまう。
あるいはゲームオーバーの前にリセットしてしまえば元の世界に、そんな事が頭の中を流れていった。
「マコちゃん、お願いだからそんな哀しそうな顔をしないで。マコちゃんにそんな顔されたら胸が苦しくなる」
「ゴメンゴメン、ちょっと考え事をしていただけだよ」
七海に向かい微笑みかける事しか出来なかった。
「さぁ、弁当でも買いに行くかな」
「ええ、ちょっと待ってよ。それじゃ一緒にご飯食べようよ。今日はお姉ちゃん遅くなるから1人で食べても美味しくないから、一緒に食べよう」
俺が立ち上がると七海がそんな提案をしてきて、少し躊躇ったが七海の提案を受け入れる事にした。
そのうちにこのお礼をすれば良いだけの事だと思ったから。
少しだけ片付けて七海と2人で夕食を食べた。
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