第7話 転校初日・2

そんな約束を望として、放課後になり七海の提案で街を案内してもらう事になった。

制服のまま駅前の繁華街をぶらつく事になり。

駅前から真っ直ぐに海に向かいっている大通りを七海と歩く。


「なぁ、七海は地元じゃないって言っていたよな。前はどこに住んでいたんだ?」

「うん、実を言うと私も小さい時の記憶があまり無いんだよね。お姉ちゃんが言うには何か大変な事が起きてそこには居られなくなって引っ越して。引っ越した先でも色々あって、この街に引っ越して来たんだ」

「七海の周りは大変の事ばかりなんだな」

「う、うん」


七海の顔から一瞬笑顔が消える。

聞いちゃいけない事でも聞いたのか? などと考えながらも話しを続ける。


「どうしたんだ? 顔色悪いぞ」

「大丈夫だよ、マコちゃんは気にしすぎだよ」

「そうか」

「うん」


その時、聞いた事の無いメロディーが聞こえてくる。

七海を見るとポケットから何かを取り出して少し指でスライドさせて話し始めた。

あれが電話なのか? 

余計な事に何でも在りならこんな情報こそ何でも在りにしてくれれば良いのに。

そんな事を考え、歩道に目をやると前から2人の女の人が歩きながらお喋りしているのが聞こえてきた。


「可愛そうだね、あの子」

「そうだね、私達に助けを求めても何もしてあげられないのに」


女の人は俺と目が合と驚いたような顔をして俺の顔を怪訝そうに見ていた。


「マコちゃん?」


不意に七海に呼ばれ振り返ると実体が薄い2人の女の姿はそこには無かった。

誰なんだ? 

俺以外で霊が見えるって……

昼休みの七海の言葉が脳裏を過ぎる。『雪菜ちゃんは徐霊出来るんだよ』霊に聞こえるのなら俺にも聞こえるはずだ。

感覚を研ぎ澄ませると微かだが聞こえてきた。


「助けて……」


その声は街の喧騒に飲み込まれて消えてしまいそうなくらいな声だった。


「マコちゃんってば」


七海の声に我に返り、七海にブレザーと鞄を渡して走り出していた。


「もう、どこに行くの?」

「ゴメン、預かってくれ」

「お姉ちゃんに買い物頼まれたのに!」


七海が俺の鞄とブレザーを両手で持ち上げて困惑しているのが見えるが、今は事情を話している暇は無かった。


微かな声だけを頼りに大通りから直ぐに脇道に入る。

辺りを見回しながらしばらく探していると裏通りに面して乱立しているビルの地下駐車場の入り口で数人の人が中を恐る恐る伺っているのが見える。

走り寄ると驚いた様な顔をして薄い人影は消えてしまった。

耳を澄ますと確かにあの声がこの中から声が聞こえきて、深呼吸をして地下駐車場に続くスロープを下りていく。


「俺、こんな電波系好みなんすよ」

「お前も変わった趣味しているよな」


駐車場の奥の方からいけ好かない男たちの声が聞こえてくる。

静かに奥に歩いていくとはっきりと人影が見えてきた。

同じ高校の生徒なのだろうブレザーは着ていないが俺と同じ青いネクタイをしている。

1人の体格の良い金髪の男が小柄な女の子を壁に押し付けていて、2人の男が側に立って笑っているのが見えた。


「雪菜なのか?」


俺が声を掛けると俺達にしか聞こえない声が止んだ。


「テメエ、誰だ!」

「こいつ、例の転校生ですよ」

「邪魔するな!」


1人の男が俺に向って走り出してくるのが見える。

女の子を押さえつけている金髪の男が女の子のブラウスに手をやりブラウスのボタンを引きちぎった。

胸元を隠そうとすると男が力任せに女の子の腕を押さえつけた。


「助けて!」


霊の転校生にしか聞こえない声で雪菜が叫んだ瞬間スイッチが入った。

しかし、不思議な事に七海の時のような瞬間移動は起きなかった。

それでも何でも在りなら出来るはずだと俺は確信する。

向ってきた男が俺の顔面目掛けてパンチを繰り出し男が唖然としている。

それもその筈だ、男の繰り出したパンチは俺の顔をすり抜けて空を切ったのだから。

がら空きになったわき腹にドアでも叩くように拳を叩き込んだ。


「ぐぇー」


踏みつけられた蛙の様な声を出し体がくの字になる。

リミッターの外れた俺の拳が男のわき腹にめり込み、男がわき腹を抱えながら崩れ落ちて嗚咽を繰り返しながら胃の内容物を吐き出している。


「やりやがったな!」


そう叫びながら少し細身の男が俺の体に蹴りを叩き込んできた。

避ける事もせずに体で受け流す、受け流すと言うより通り抜けたと言った方が良いのか。

そんな事を考える間もなく男の膝を払う。

男の膝の骨が軋む音がして背中から床に倒れて、男が膝を抱えてのたうち回った。


自分の仲間がやられたにも係わらず耳に幾つものピアスをした金髪の男は雪菜の体に顔を押し付けようとしていた。


「嫌がる顔がたまんねぇ」


そんな腐った事を言うと雪菜の顔が苦痛に歪むのが見えた。


「止めろ」


そう言って雪菜の腕を押えている男の手首を掴んだ。

男を掃い飛ばす事くらい今の俺なら容易い事だろうが雪菜まで吹き飛ばす訳には行かず、あえて男の手首を掴んだ。

それ程、俺は冷静だった。


「邪魔するなと言っただろう!」


男が振り向こうとした瞬間、男の腕を手前に引き倒す。

枯れ枝を折るより簡単だった。

何かが砕ける様な鈍い音がすると男の腕があり得ない方向に不自然に曲がっている肘の骨が折れたのだろう。

男の顔から血の気が引きダラダラと脂汗を掻きながら男の顔が苦痛に歪み、膝から崩れ堕ちて腕を押えて震えている。


「痛がる顔がたまんねぇな!」


俺が男の顔を睨みつけて言い放つと男が搾り出すような声で命乞いをして後ずさりをする。


「た、助けて……」

「1回、マジで死んでみるか?」


俺が男達に冷たく言い放つと「ひぃー」などと声を上げながら必死に走って逃げ出した。

振り返り自分の制服のネクタイを外すと、雪菜の表情が強張り俺をあの冷たい眼でにらみつけた。


「そんな目で見るな、何もしないよ」


雪菜に背を向けてワイシャツを脱ぎ後ろにいる雪菜に放り投げる。


「そのなりじゃ外に出られないだろ、そのシャツに着替えろ」

「あなたは何者?」


背後から機械の様な抑揚の無い雪菜の声が聞こえて考える間もなく即答した。


「雪菜の感じているとおり幽霊さ。限りなく人間に近い」

「そう。とりあえず私にも七海にも悪意が無いのが判った」

「着替え終わったか?」

「うん、終わった」


雪菜の返事を聞いて振り返ると不思議そうな顔をしながら長い袖をブラブラさせていた。

電波系で天然なのかそんな事を考えながら雪菜がブラブラさせている袖を捲くり上げながら雪菜の顔を見ると、どこと無く真っ白な頬が赤くなっている気がした。


「行くぞ」


そう言って雪菜の鞄とブレザーを拾い上げてブレザーを渡すと雪菜がモソモソとダボダボのシャツの上に着た。

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