第6話 転校初日・1

翌朝、窓から差し込む眩しい朝日と猫の声で起こされた。

「起きて行くよ」

「ふぁ~」

大きく伸びをして起き上がり部屋の中を見渡すと大きな家具や電化製品は綺麗にセッティングされていたが、衣類だろうか段ボール箱がいくつか部屋に置いたままになっていた。

洗面所に向かい顔を洗って部屋に戻ると壁に制服が掛けられている。

制服に着替え鞄を開けて見るとノートと筆記具だけが入っていた。

職員室で簡単な説明があると猫が言っていたので早めに家を出て猫の案内で学校に向った。


校門の前で猫と別れて職員室に向かい簡単な説明を受け、予鈴と共に生真面目そうな2年A組の担任の新屋あらや先生と教室に向う。

廊下で待たされ、転校生が来た事を新屋先生が告げると生徒達がざわついた。

教室に入るように促されドアを開けて教室に入ると俺にクラス中の視線が集まった。

「それじゃ自己紹介をして」

黒板に向かい日向真琴と自分の名を書き振り返る。

「日向真琴です、これからよろしくお願いします」

軽く頭を下げて当たり障りの無い挨拶をすると俺の後についての補足を担任の新屋がした。

「日向君は長期入院をしていてこの学校に転校してきました。怪我の影響で記憶が曖昧になっているのであまり過去の事など聞かないように」

新屋先生の曖昧な説明にクラスメイトが驚きの声を上げている。

教室を見渡すと嬉しそうに小さく手を振っている七海の姿が見えた。

七海に向い笑顔で人差し指と中指の2本で敬礼の様な挨拶をするとクラスメイトの視線が七海に集まり俺の記憶がどうの以上の驚きの声が上がる。

「あいつも電波系と仲間か」やら「買収されたんじゃないの」なんてあまり聞きたくない声も聞こえたが無視していると担任の新屋先生が手を叩いて生徒を制した。

「ほら、静かにしろ。日向は月ノ宮の隣の空いている席だな」

そう言われ鞄を持って七海の隣の席に座り青いネクタイに手を掛けて緩めた。

「しかし、本当に何でも在りなんだな」

「マコちゃん、何を言っているの?」

「別に、これから宜しくな」

「うん!」

七海が満面の笑顔で答えた。

しかし、七海の優しい眼差しと真逆の視線を教室に入ってきてから俺は感じていた。

その視線は廊下側の一番後ろに座っている栗毛色と言うのだろうか少し変わった色のミデアムヘアーを所々リボンで絞っているメガネを掛けたクールに見える色白の女の子から発せられていた。


休み時間になるとクラスメイトが興味津々で俺と七海の周りに集まってきて簡単な質問をしてくる。

「2人の関係は?」

「昨日、知り合って食事をした」

「日向君はどこに住んでいるの?」

「山の上1丁目だ」

「生年月日は?」

「4月1日」

「兄弟は?」

「妹が1人、両親と海外に居るらしい」

クラスの中でも俺の前の席の武原 望たけはらは人当たりの良い笑顔で俺に声を掛けてきてくれた。

「俺、武原 望たけはらのぞむって言うんだ。宜しくな、マコちゃん」

「あのな、マコちゃんは止めてくれないか、男にそう呼ばれると気持ち悪い。真琴で良いから」

「それじゃ、俺の事は望と呼んでくれ。仲良くしようぜ」

「ああ、宜しくな」


昼休みになるクラスの中も落ち着きを取り戻して着ていた。

俺は武原 望の案内で購買に行きパンとジュースで昼食を済ませる。

七海は弁当を食べていた。

「七海、そんな小さな弁当箱で足りるのか?」

「足りるよ、失礼だな。マコちゃんは。私はそんなに大食いじゃありません。そんなことよりさ、妹が居るんだね」

「そうみたいだな」

「そうみたいってマコちゃん忘れていたの?」

「しょうがないだろこんなポンコツ頭なんだから」

俺ですら妹が居る事を朝の職員室で聞いたばかりなのだ。

「そうだよね。そうだ友達を紹介するね。雪菜ちゃん!」

七海が友達の名を呼ぶと、突き刺さるような視線が段々接近してきた。

嫌な予感がして顔を上げるとそこにはあの女の子が立っていて、俺をメガネの奥からバナナで釘が打てそうなくらい冷たい視線で見ていた。

「彼女は星合雪菜ほしあいゆきなちゃん、可愛いでしょ。クォーターなんだよ」

「日向真琴です、宜しくな」

「あなたとは、後でゆっくりお話がしたい」

その声には全く抑揚がなくまるで機械が喋っている様に聞こえる。

その時、あの言葉が頭を過ぎった。

この子がもしかして電波系なのだろう直感だった。

そして七海を防波堤で見かけた時のグループの中に居たのだろうか。

そんな事を考えていると知らない間に雪菜は自分の席に戻り、俺に凍てつく様な視線を相変わらず浴びせていた。

「マコちゃん、あのね。雪菜ちゃんは徐霊が出来るんだよ。凄いでしょ」

「へぇ、そうなんだ。でも、気にしないのが一番良いらしいぞ」

「えっ、マコちゃんも見えるの?」

七海の顔が夕べの様に少し強張り瞳が揺れた。

「七海は怖いのか?」

「うん、だって見えないけれど何か居るのは感じるんだもん」

「気にしないのが一番なんだよ。何かを感じても無視すれば良いんだ」

「それでも怖いよ。やっぱり」

「それじゃ、もし俺が幽霊だったらどうする?」

「平気だよ、だってマコちゃんは優しいし幽霊の訳無いじゃん。もし幽霊でもマコちゃんなら怖くないもん」

「そうか」


時計を確認してトイレに向おうと席を立つと望が後を追いかけてきた。

「なぁ、真琴。お前、月ノ宮と付き合っているのか?」

「はぁ、そんなんじゃ無いよ。会ったばかりだぞ」

「でも不思議だよな、あの男嫌いの月ノ宮が真琴と楽しそうに話なんかしているからてっきり彼氏かと思ったよ」

「男嫌い?」

「ああ、男に触られたりすると泣き叫んで嫌がったりするんだ、この学校でもかなりのハイレベルな美人なのに。だから絶叫マシーンとかスクリームプリンセスなんて呼ばれているんだぜ」

そんな事を望が言ってきた。

廊下に出ると他のクラスの生徒の視線が俺に集まった。

転校生なんてこんな感じなのだろう。

「そう言えば真琴の家は山の上だったよな、明日遊びに行っても良いか?」

「構わないけど、まだ片付いてないから部屋汚いぞ」

「男同士なんだから気にしないよ」

「しょうがねえな」

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