第3話 目覚め・2
ポーターだと言う猫の案内で街を彷徨っていた。
海沿いの街はそれなりに大きかった、都会的と言えば良いのだろうか大きな駅があり大勢の人が駅に吸い込まれ吐き出されている。
大きな通り沿いを歩いていて店のショーウインドーの前で立ち止まった。
「これが俺なのか?」
ショーウインドーには身長175センチ位だろうか体型は痩せてもなく太ってもいない標準体型と言うのだろうか年齢は高校生位に見える男の姿が映っていた。
髪の毛は短くも長くもなく顔は普通?
そうこれが普通なのだろう自分の顔がどうのなんて自分じゃ判りはしない。
ましてや俺は自分の顔を見たのはこれが初めてなのだから。
髪を手で弄ったり、体を触って感覚を確かめたりしていると周りの視線に気が付いた。
通りすぎる人が不思議そうな顔をしながら俺を見ていて、慌てて歩き出すと俺の数歩前をあの猫も俺が歩き出すのを確認して歩き始めた。
駅前から住宅街に入りしばらく歩くと目の前に学校が見えてきた。
「県立藤ヶ崎高校?」
「君がこれから通う高校だ」
「俺は高校生なのか?」
「手続きは全て済んでいるから」
ポーターの猫に手続きは済んでいると言われても納得が行くような事ではなかった。
深い溜息をつき空を見上げる。
日は沈み夕闇が迫って辺りは暗くなってきていた。
「何も心配は要らない、しばらくすれば判ってくると言った筈だよ」
「少し聞いても良いか?」
「構わないけど、僕の声は君以外には判らない。人前で話すのは避けたほうが良いと思うよ」
「了承した。こんな俺でもそのくらいは判る。猫と喋っている人間なんて幽霊の俺ですらゴメンだからな」
辺りを伺い人が居ないのを確認して近くにあった人気のない公園に向いベンチに座り。
ポーターにいくつか判らない事を質問する。
質問と言っても判らない事だらけなのだが今までに話の中で判っている事を聞いておきたかった。
「お前はこれはゲームだと言ったよな。ゲームならルールがあるはずだ。それを最初に聞いておきたい」
「ルールなんて言う物は解釈のしかたで変るものだよ、例外の方が多い。それに普通にしていれば問題ない、だけどこれだけは言っておく時間と君の力には限りがある」
「時間はどの位あるんだ?」
「僕には判らない、僕はポーターに過ぎないから」
「いい加減なルールだな。それじゃ質問を変えよう俺の力って何だ?」
「君はハーフゴーストだ。慣れれば人の言う幽霊と同じ事が出来るはずだよ」
「幽霊と同じ事? それは物を通り抜けたり消えたりと言う事か」
「そう、それと君には人間にあるリミッターがない」
ポーターが言うにはリミッターとは人間が無意識に力を制限している事だった。
理由は判らないがそれは不思議と知っていた。
火事場の馬鹿力と言うやつだ、科学的に見ても人間は思っている以上の力が出せると証明されている。
しかしそれが出来ないのは自分の力で自分自身を壊してしまうからだと。
そのリミッターが無い。
それはそうだ、俺は人間では無いのだから。
「自分が言えることは力を使い過ぎると存在できなくなる事と、時間が来るまでに願いが叶わなければどちらもゲームオーバーになると言う事だ」
「もし……」
言いかけて俺は止めた。
俺の正体が他人に判ってしまったらと聞こうしたが普通の人間ならまず信じないだろう、幽霊なんて非科学的な曖昧なもので信じる信じないは別としても霊能力者や霊感などと言っても証明する事など出来やしないのだ。
一息ついた所で公園の広場に目をやると何かが蠢いていた。
それはボロ布かゴミが風で動いているのかと思ったが良く見るとそうではなかった。
「何だあれ?」
「大きく一括りにすれば君の仲間だよ。色々と見えるだろうけど気にしな事だよ」
俺の仲間? そうかそうだよな、俺は人に限りなく近い幽霊なのだ。
見えないものも見えて当たり前か。生まれて始めてみたよ。
そう思った時、笑いがこみ上げてきた。
「あははは…………」
一頻り笑うと涙が出てきた。
俺もどこかで生まれて、死んでいるのかも判らず。
あいつの言葉を借りるのならハーフゴーストになってこの世に戻って来た訳だ。
パズルのピースを集めるように自分の願いを探してゲームをクリアーするしか答えが無い事が理解できた。
「それじゃ、俺の家に案内してくれ」
「了解」
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