第7話 リロード

深い眠りについていた気がする。

まるで深海に吸い込まれて行くような深い深い眠りに。


どこからともなくハミングが聞こえ良い匂いが鼻をくすぐり天に昇るように意識が覚醒した。


「おはよう、頼」

「ん、ロゼ? おはよう」


数日の記憶が無い様な気がするが頭の中はすっきりしていて問題は無いのだろう。

ダイニングテーブルの上には朝食の用意がされていてスープから湯気が上がり良い匂いがする。

今日はロゼと2人でゆっくりしても良いのかもしれない。


朝食を食べてロゼは紅茶を俺はコーヒーを飲みながら窓の外をなんとなく見ていた。


「ひまわり畑か」

「えっ……」


独り言のように呟いたのにロゼが過敏に反応し手に持ったティーカップがカタカタと音を立てている。

ティーカップを持つロゼに視線を移すと何かに怯えるように見え声を掛けても返事が帰ってこない。

そんなロゼを見た自分自身も一輪のヒマワリが頭のなかに浮かんできたがロゼの視線の先を見た瞬間に吹き飛んでしまう。


綺麗に咲いているヒマワリが真っ赤な業火に包まれるようにして炭と化し。

まるで野焼きされたかのように黒黒とした大地になってしまたのに空は抜けるような青空で違和感というよりは。


「頼は絶対に来るな」

「はぁ? 何処に? おい、ロゼ!」


血の気が引いた顔のままロゼが飛び出していく。

窓の外を見ると青空だったのに夕闇が迫ってきたかのように急に暗くなり。ロゼの忠告など聞かずに飛び出していったロゼを追いかけるように外に出る。

ドアから一歩だけ踏み出すと刺すような痛みが全身を覆い身悶えしそうになり。



空を見上げると荒波の様に雲がうねり、大地は黒焦げでさながら地獄絵図の様だ。

そんな世界でロゼの姿を探すとどす黒い霞と言うか雲に追いかけられていて。黒いものをよく見ると頭蓋骨の様なものが見えるが不確かで。


「ロゼ!」


声を上げると悪寒が走るというか背中に冷たいものが流れる。その原因が近づいてきた黒い雲だった。

確かに黒い頭蓋骨なのだがどす黒い人型の何かが頭蓋骨の表面で蠢いているのではなく。

憎悪に満ちたどす黒い無数の人の形をした何かで頭蓋骨の形をなしている。

その真っ黒な頭蓋骨が頭上に近づいてきただけで皮膚を生きながらに引き剥がされるような痛みに襲われ。

頭蓋骨が口を開けた途端に瘴気と言うか異様な臭がして口をふさぐが意識が遠ざかりそうになると身体に衝撃を受けた。


「こんな辛い思いは私一人がすれば良いんだ。頼には関係ないだろ!」


ロゼが黒い靄に包まれて苦しんでいるのを見た瞬間に何かが身体の中ではじけ飛んで。

怒気を帯びた口調でロゼに対峙していた。


「ふざけるな!」


もう嫌なんだ。

目の前で苦しんでいる女の子すら守れないなんて。

今、自分自身に出来ることは何だ。

幼い頃から体を動かすのが好きで運動は大好きで得意だった。

喧嘩なら負ける気はしないが武道を習ったことすらなく剣で立ち向かうなんて無謀過ぎる。


それならば……


腕を振り下ろすと確かに重みを感じて両の手の中にはそれぞれ銃が一丁ずつ。

右手にはシルバーの自動式拳銃が青く装飾が施され。左手には同じ型の黒い拳銃が金色で装飾されて収まっている。

この拳銃がコルトだとかベレッタかなんて今はどうでも良い。

黒い頭蓋骨に銃口を向けトリガーを引くと乾いた炸裂音と共に火花が散りうめき声が上がる。

多少の反撃にはなったのだろうが直ぐに向かってくるので引き金を引き続けると球切れになってしまった。


「リロード!」


ガンシューテイングゲームの様に銃をおろして叫ぶと再び銃弾が装填され反撃を試みる。


「こ、こんなモノから逃げ回っていたのかよ」


向かってくる相手に反撃をし装填を繰り返すうちに徐々に体力が削られ。それ以上に精神的なダメージが大きい。

恐らく自分自身の精神力が銃弾その物なのだろう。相手のダメージはこちらの非にならないくらい少ないように感じる。


ロゼを見ると足元で子どもの様に蹲り怯えていて。


「ロゼ、ロゼ、聞こえるか?」

「頼が死んじゃう。居なくなっちゃったら。一人ぼっちはは嫌だ」

「俯くな。顔を上げろ。ロゼは1人なのか? 1人じゃねえだろ。もう逃げまわるな。一緒に立ち向かえ!」

「頼…… う、うん」


震えながらも立ち上がったロゼの頭に腕を回し初めて出会った時のように口づけをしていた。

これが最後にもなるかもしれないそう思ったから。


ロゼの存在を背後に感じながら有りったけの力を振り絞り声を上げる。


「リロード!」





どれだけ撃ち続けたのだろう。

倒れる瞬間に聞いたロゼの声で辛うじて意識を繋ぎ止めていた。


「あなたなんか。大嫌い!」


全身全霊で叫んだロゼの声が響くと黒い頭蓋骨は断末魔を上げながら消え去り。綺麗な青空とヒマワリが見え自分自身が倒れていることを認識する。


「頼……」

「そんな顔をするな。大丈夫だよ」


そんな言葉にロゼは静に首を横に降ってキスをしてきたがラオウにじゃれつかれた時のような事は起きなかった。


「もう、仮契約では駄目。本契約をしたい」

「おい、何をする気だ。本契約ってまさか」

「動くな。お願いだから動かないで」


ロゼに腕を抑えられ動きを封じられるが贖う力さえ既になく。

なすがままにされロゼの温もりに包まれると同時に意識がぼんやりし始め。


「ずっと一緒に居たいけど。さよなら」


遠くで最後のロゼの声が聞こえ。





揺蕩っているのが正しいのかもしれない。

はっきりしない頭のなかにいろいろな声が聞こえ通り過ぎていく。


私、悔しいよ頼君ともっと遊びたかった


頼君をもっといっぱい知りたかった


頼君と…… 頼君と…… 一緒にいられなくて……ごめんね


あいつなのか?


それじゃここは……


頼をいつまでも待っているから


ロゼ、何処に



誰かが名を呼んでいる

姉ちゃん?


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