第13話 水乃瀬高校・2

授業中以外は質問攻めが続いた。

それはある意味イジメや嫌がらせより疲れた。

理由は簡単、どう説明して良いか判らないから。

だって、ハルトさんと出会ってまだ4日目。

それに私が知って居るのは吸血鬼で海外を転々として400年以上生きてきて、10年後の未来から来たなんて誰にも言えない事ばかりなんだもん。

それでも何とか苦し紛れでも答えた。

海外を転々としていたからあまり会った事が無い事。

それに私より祖母の方が月城先生とは親しい事など知る限りで答える。

昼休みのチャイムが鳴るとうな垂れながら席を立った。


「あれ? 今日はお弁当じゃないの?」


「うん、寝不足で今朝寝坊したの」


「それで、彼に送ってもらったんだ」


「うん、でもなんで教えてくれなかったんだろう。一緒に住んでるのに」


「…………」


雪乃ちゃんの返事がなく見ると周りのクラスメイトの視線を集めていた。

そして雪乃ちゃんに手を引っ張られた。


「ちょっ! どうしたの急に?」


「いいから来なさい、何で不用意にあんな事言うかな」


雪乃ちゃんに怒られながら学食まで半分引きずられながら連れて行かれた。

2人でトレーに日替わり定食を乗せてテーブルに座る。

ここ、水乃瀬高校は島の中にある二つの高校の1つでもう1つは公立の高校だった。

私立で有るが故にお坊ちゃん、お譲ちゃん学校と呼ばれている。

ただ公立より入学金や授業料は高いだけのことで、それでも校内の設備はそれなりに充実していた。

そして学食も広めに作られている、それでも弁当派が多いせいかそれ程混んではいなかった。

それなのに、雪乃ちゃんに学食の中ほどの席に連れて行かれた。


「さぁ、聞かせてもらうわよ。何で先生と2人暮らしなの?」


「うぅ……雪乃ちゃん怖いよ」


「何で、雫のお婆ちゃんの家でなくて雫の家なのかしら」


「うぅ……言わないと駄目かな?」


「それに、寝不足って……雫に限って……でも……」


雪乃ちゃんが何を言っているのか一瞬理解できなかったけれど……


「ば、馬鹿! そ、そんな筈無いじゃない! ただ帰りが遅かったから心配で」


慌てて立ち上がり声を荒げてしまった。

そして雪乃ちゃんが楽しそうに私の顔を見ているのに気付き真っ赤になって椅子に崩れ落ちた。


「本当に好きなんだ」


「ち、違うよ」


「でも、雫は恋なんてしたことあるの?」


「うぅ……ないかも。雪乃ちゃんだって」


「私はあるわよ。こう見えても恋愛経験は豊富なんだから、雫よりは大人だもの。で、何で2人暮しなのかなぁ?」


親友である雪乃ちゃんには嘘を付きたくは無い、でも本当の事も言えるはずがなかった。

私が一緒に居てくださいなんて泣きながらお願いしたなんて。

その時、学食がざわつき始めていた事など耳に入らなかった。

そして雪乃ちゃんから目を逸らしてお味噌汁のお椀に口をつけて噴出しそうになった。


「横、空いているかな?」


「ええ、どうぞ」


雪乃ちゃんも無意識に返事してから、驚いて少し横に飛び跳ねた。

声を掛けていたのはトレーを持ったハルトさんだった。

そして何も無かったようにハルトさんが話し始めた。


「ボディガード代わりに一緒に暮らしているんだ。姫の婆さんに頼まれてね」


「せ、先生。聞いてたんですか?」


「もう少し、姫の困っている顔が見たかったけれどね」


抑揚の無い声で言われても内容が変るわけでもなく顔が真っ赤になった。

するとテーブルの下で雪乃ちゃんが私の脛を突っ突くからますます顔が赤くなる。


「も、もう月城先生。からかうの辞めてください」


「本気だと言えば信じるかな?」


「信じません! 意地悪!」


「いや、悪い悪い。急に月城先生なんて呼ぶからね」


雪乃ちゃんに目をやるとお腹を抱えて笑っている。

そして周りでは聞き耳を立てた生徒が沢山居た。

それからは何を食べたのか全く覚えていなかった。


「それじゃ、お先に失礼するよ」


そう言って月城先生が席を後にした。


「そろそろ、教室に戻ろう」


「う、うん」


私は疲労困憊してフラフラと雪乃ちゃんに連れられて教室に帰り机に倒れこんだ。


午後の授業が終わりいつもなら憂鬱な放課後のはずなのに、今はそんな心配はいらないみたいだった。

何度と無く華保やその取り巻きと目が合うけれど、直ぐに私から視線を外してそっぽを向かれた。

理由は未だに判らなかったけれど。



部活に行く雪乃ちゃんと別れて家に帰ろうと階段を下りて昇降口に向っていると呼び止められた。


「姫宮さん、時間あるかしら?」


振り返ると養護教諭つまり白衣姿の保健の先生が立っていた。


「鳴海先生、何の用ですか?」


鳴海先生はスレンダーで背が高くって女の私から見ても憧れてしまう先生で、緩いウェーブのかかった茶色い髪に真っ白い肌で吸い込まれそうな瞳をしている。

とても綺麗で男子学生人気ナンバーワンの先生だった。


「ちょっとだけ、保健室でお話がしたいのだけどいいかしら?」


「えっ、でも私先生に話すことなんて何も無いですよ」


「いいからね、ちょっとだけ」


不安になり胸にあるロザリオに手を当てるこれは私の癖。

不安になる時に無意識にしているらしい。

すると階段の上から声がした。


「姫、帰らないのか?」


「あっ、ハル。うっ、月城先生」


その時、微かにチッと舌打ちする音が聞こえた気がした。

でも誰が? 

私とハルトさん以外には鳴海先生しか居ない。

あんなに綺麗で優しそうな顔をしている鳴海先生が舌打ちしている場面なんか浮かんでこなかった。


「姫に何か用かな、鳴海水蘭先生」


「な、何で私の名前を? やっぱりあなたは」


「おや、獣臭い匂いがするが」


昇降口の方から水乃瀬高校名物教師、体育の熱血・大上先生がこちらに向って走ってきた。

すると鳴海先生が溜息をついて頭に手を当てた。


「な、何で貴様がここに居る? 力の大妖! 黒き悪魔! 地獄の執行人! それより俺様は貴様が月の者と一緒に居る事は許さん!」


ハルトさんより少し小柄だけれど体つきががっしりとしている大上先生がハルトさんの胸倉を掴んだ。

私が驚いていると優しく鳴海先生が肩を掴んでくれた。


「いいのか? 俺にこんな事をして? 若造が」


ハルトさんが笑顔で言っているけれどその笑顔に比例するようにドス黒いオーラーが出ていた。


「ひぃっ!」


思わず声を上げてしまったするとハルトさんから黒いオーラーが消えた。


「校内では勘弁してくれ。お前とやりあう気は無い、すまなかった」


「あらあら、有りえないもの見ちゃった」


ハルトさんが頭を下げると鳴海先生が驚いていた。


「腰抜けが」


そう言い放って大上先生が走り去った。


「廊下は走っちゃ駄目よ!」


鳴海先生を見ると嬉しそうに手を振っていた。


「さぁ、姫。帰ろう」


ハルトさんが振り向いて声を掛けてくれた。

とても寂しそうな瞳で、そんな瞳の中に僅かだけれど優しさが隠れているような気がした。

すると鳴海先生がハルトさんに話しかけた。


「本当にナイトは腑抜けになったのね」


「裏でも表でも俺の様な者が必要なくなればそれが平和って事なんだよ」


「愛する者が守れなかったから?」


「長く生きていればどうしようもない別れもあるだろ。ただそれだけの事だ」


鳴海先生が大きな溜息をついた。

私は訳が判らずハルトさんと鳴海先生の顔を交互に見ていた。

けれど、ハルトさんの言葉だけが胸を締め付けた。


「それじゃ、質問を変えましょう。この子の前であんな事言われたのに否定しないのね」


「姫は俺の正体を知っているからな」


「それじゃこの子は……」


その時、一瞬だけハルトさんの視線が凍てつくような視線になった気がした。


「あまり、お喋りが過ぎると干物にするぞ」


「でも、この子はあなたを受け入れた。この子が鍵なのかもね」


「それはどうかな、俺はこの時代に居るべきじゃないからな」


「それじゃ、シュヴァリェあなたはいったい……」



ハルトさんの車で家に帰る。

先生がこんなに早く帰れるものなのかと思ったけれど、ハルトさんと一緒に居られると思っただけで訳も判らず嬉しかった。


「は、ハルトさん。聞いても良いですか?」


「質問は帰ってからにしてくれないか?」


「は、はい。判りました」


抑揚の無い声でシャットダウンされた……

チクリと胸に何かが刺さった気がした。





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