本論① 問題児というより
「面倒みきれん!」
『鬼瓦』の蔑称、もとい愛称で親しまれぬ教務主任の高坂先生が机を殴ると、その振動でオレたち3体のこけしはピョンと小さく浮き上がった。
時間は、先ほどのダンジョン攻略に失敗したあとすぐ。先生の転移魔法でダンジョンからこの指導室に飛ばされてきたオレたちは、最低限の回復魔法を受けたあと、すぐにカミナリを落とされることになった。
「田丸太陽、アザレア・アースキン、シフト・ブランヴィル。
貴様ら、そもそも私が何故叱責しているか、分かっているのか?」
田丸太陽とはオレのことだ。太陽だからサン。パーティメンバーが俺以外2人とも外国の名前だから、適当につけたあだ名だけれど、今ではあだ名の方が気に入っている。
さて、ええと、なんで高坂先生がオレらを怒るのかって話だけど。
3人口々に考えを述べる。
「イライラしてやがるから、でしょ」
「私が世界に愛されてるから、嫉妬しているんでしょう?」
「カルシウムが足りていないからですね」
「【イナ】」
カミナリが落とされた。物理的に。いや、魔法だから物理じゃないのか。
黒焦げになって、口からポハッと煙を吐く俺たちを再度睨みつけ、しかし高坂先生は諦めたように禿げた頭を掻いた。
「いつからかな……そんなふうに、貴様らが教師たちと真面目に話そうとしなくなったのは。つとめて不真面目になり始めたのは。拗ねたような態度を取り始めたのは」
「拗ねてなんかねぇ! テメーらが問題児扱いするからです!」
「貴様らは他の生徒に比べて、覚えも悪ければ
何も言えなくなって歯噛みする。
シフトは露骨に舌打ちし、アザレアは両手を固く握りしめて、下唇を噛んでいる。
「私が叱責したいのは、貴様らの結果ではない。過程も流そう。
だが、貴様らのこの頃の態度だけは、見過ごせん」
「…………」
「指導教員は貴様らに、魔法やアイテムを使わない、基礎的な戦闘を行うように命じたはずだ。そして、そのようにすれば、貴様らは難なく課題を突破できたはずだ。
それを、誰に向けての反抗だか知らんが……」
アザレアを指差す。
「魔力が足りないのに魔法を使おうとしたり」
「うぎっ」
シフトを指差す。
「特殊なアイテムを使って講釈たれている間に倒されたり」
「ぐぐっ」
そして最後に、オレを指差す。
「成功率の低すぎる召喚術を、自分が倒れればパーティ全滅という局面で、なんの躊躇いもなく使ったり!」
「うぐぅっ!」
「今のお前たちは問題児というより、ガキだ! 自分の実力を鑑みることもせず、他の者と同等に扱えと駄々をこねる子供だ! だからもう面倒みきれんと言っているのだッ!」
「…………」
「嘆かわしい……今回の実習で、生徒会長のカトリーくんは、突如出現したイレギュラーな大型魔物さえも封印してみせたというのに。よもや高等部にもなって、アルプに全滅させられるパーティがあるとはな!」
チッ……このオッサンもカトリーカトリーってか。
オレの反抗的な表情を見とがめたのか、高坂先生は、今度は両手で机を殴った。……あれ、オレってバカだからよく分かんねぇんだけど、マホガニー製の机って割れるモンなの?
鬼瓦の顔が、まさしく鬼神と変わる。
「明日、緊急の落第試験を行う!」
『えええええええええっ!!』
「不合格なら田丸は落第! アースキンは他の学部へ移り! ブランヴィルには本来進む予定だった研究者コースへ戻ってもらうッ!!」
『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』
「条件は、今日貴様らが無様に倒れた初心者ダンジョン【フール】にて、10階層突破を達成することだぁぁぁぁぁッ!」
『ぎゃああああああああああああああああああああああ!!』
鬼神・高坂先生は、オレたちに2度目のカミナリを落とす代わりに、無慈悲な最後通告を行ったのだった。
#
今日はアイサツなし。オレの通ってる学校について、いろいろ誤解があるようなので、この際だからいろいろ説明させてもらう。
1902年、異界と現世の交点であるダンジョンが、世界各地に出現。
これを、『ウェイクアップ・オデッセイ』と呼ぶ。
2019年現在、最も安全だと言われる【フール】をはじめとし、世界最多の7つものダンジョンを有する国・日本。
このブレイブダンジョンアカデミーは、【フール】の上に建っている。ダンジョンについての研究及び経済活用においてトップを走る日本を支える、99年の歴史を持つ大学校だ。
これまで数多くの有名冒険者や研究者を輩出しており、中でも、オレの憧れる召喚士・ユニバー、アザレアの憧れる水魔導士・コスモ、シフトの憧れるアイドル・スペースたち3人は、現在世界一の冒険者パーティとして、『大英雄』と呼ばれる。
ブレイブダンジョンアカデミー……ああ、長ったらしい! オレたちはこの学校のこと、ブレアカって呼んでる。以下ブレアカな。
ブレアカは、世界最先端のダンジョン学校のため、全世界から生徒が学びにやってくる。日本人のオレの方が少数派なくらいだ。生徒が全世界からやってくるとは言っても、命の危険がある学校に通いたいという生徒はいまだ多くはなく、冒険者としての才能を持たない
高等部からは3つの学部に分かれる。
ダンジョンを実際に探索する人間を育てる『冒険者コース』、
ダンジョンを利用したビジネスを学ぶ『経済・商業コース』、
魔物やダンジョンそのものを研究する『研究者コース』。
あと、
ようは、冒険者としてのジョブを部活動に対応させてるわけなんだけど。なんかイミあんのかなこれ? あ、けっしてオレが授業を聞いてないせいで知らないとかじゃないから。お間違えないよう。
今日はこのくらいでいいかな。
それじゃ、オレは明日、ちょっととんでもない死線を潜り抜けなきゃいけないから、次の手紙は1日空くかもしれない。
けいぐ。
太陽より。
#
机に向かって今日のぶんの手紙を書き終えると、オレはひどい溜め息をついた。それだけでは飽き足らず、ピンピン上向きに尖った髪を掻きむしる。
次いで「ああーーっ」と呻き声をあげると、ついに我慢できなくなったルームメイトが、いっせいに枕を投げつけてきた。
うるせぇ、という怒号を聞き流しながら、俺はライトを消すと、自分のベッドにもぐりこんだ。
……早く寝よ。
…………明日不合格だったらどうしよう。
そればっかり考えてしまって、いっこうに寝付けず、ようやっと微睡が訪れたのは目覚まし時計の針が2時を回った頃だった。
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