ブレイブダンジョン・アカデミー(読み切り版)
OOP(場違い)
ワナビー・ヒーロー!
序論 あっと言わせる
――理想を真似し続けるのです。いつか理想を越えた自分になれますから!
≪付近に敵は1体……しかも最低ランクのアルプです。いくら
アルプ。ロクに授業を聞いていないオレでも知ってる、ドイツに伝わる精霊だ。女の夢の中に入って精気を吸う夢魔で、ダンジョン内ではこのように、猫に羽が生えたような姿で出てくる。
ほの暗いダンジョンの中で、仲間の持つ明かりを消してもらい、壁を伝って岩陰に隠れた。そこから恐る恐る様子をうかがってみると、どうやらアルプはまだこっちに気付いてないみたいだ。
仲間の一人、
「私が最初に行くわよ」
「おい、無茶しねーでください。お前さっきので魔力切れでしょうが」
「大丈夫よ、サン。私は世界に愛されてるもん!」
「お前がソレ言う時は大体失敗するときなんですよ!」
「ヘンな丁寧語で喋るアンタに、口癖のことでやいやい言われたくないっての!」
もっともな指摘に、オレは言葉を詰まらせた。大英雄に憧れて口調を真似してるつもりなのだが、もともと敬語とかが苦手なので、いつまで経っても上手くできない。
大英雄に憧れているのはアザレアも同じことだ。そして、もう一人の仲間であるガリ勉のシフトも。オレたちは3人とも、大英雄に憧れて口調を真似たり口癖を真似たり思想を真似たりしている同士であり、そのことがキッカケで、こうしてダンジョン探索のパーティーを組むことになった。
オレが黙ったスキをついて、アザレアは岩陰から飛び出し、サーフボードを天高く掲げた。アザレアに気付いて首を震わせる魔物に向けて、容赦なく呪文を唱える。
「出でよ! 【ゲリラ】!」
アザレアの足元から水が噴出し、彼女を守るようにとぐろを巻き始める。
水泳部の基本的な戦い方は、このように魔術で水を呼び出し、その波に乗って魔物を翻弄しながら攻撃するというものだ。
それに倣い、アザレアは掲げていたサーフボードを水の上に投げると、その上に上手く乗り移って、サーフィンの姿勢を取る。強い水勢でとぐろを巻く水と、その天辺に乗っかるアザレアは、まるで龍を操る巫女のよう。
「いっけぇー!」
だが、魔力が切れて水が止まり、アザレアはサーフボードごと地面に墜落した。
「ぐえっ」
綺麗にサーフボードの上でのびるアザレアを見て、アルプはしきりに首を傾げている。マンガ的表現をするなら、頭の上に大きいハテナが浮かんでいる。
絶妙にシュールな光景に、放送部のベルが噴き出す。
≪あははっ。無才の人って、毎日こんなコントみたいなことやってるんですか?≫
「うっせぇ! 前線に立たねーくせに、バカにしてんじゃねぇ!」
「サン、次は僕が行く」
仲間をバカにされて声を荒げるオレを、今まで後方に回って薬品調合をしていたシフトが肩を叩いて制する。オレたちより年下でチビなシフトだが、メガネの奥のその眼には、『僕が決めてやる』という強い意志が秘められているのを感じた。
肩掛けカバンから、ペンタグラム(一筆書きした星みたいなヤツだ)を模したチャームを取り出すと、シフトはそれを首に引っ掛けた。
「こんな時に着飾ってる場合ですか!?」
「やれやれ、知識が足りないねサン。アルプやインキュバスなどの夢魔には、ペンタグラムのお守りが有効なのさ!」
「……そんなの授業で習いましたっけ?」
「古い伝承の書物にはそう書かれてあるって、ウィキペに書かれてぎゃあっ」
その言葉を最後に、アルプによって吐き出された氷の魔球によって、シフトは吹っ飛ばされて力尽きた。
慌てて駆け寄るオレをよそに、放送部が興奮した様子で解説する。
≪おぉ! アルプは魔術適性の無さゆえに、魔法は1ヶ月に一度放つのがやっとなはずです。それをこのタイミングで使うなんて……もしかしたら、ペンタグラムはかなり効果あるのかもしれませんよ!≫
「知らねーっすよ!」
そんなことよりも気にするべきは、この絶望的な状況だ。初心者級ダンジョン2階層にして、パーティがほとんど全滅状態って……。
無線の向こう側から、ポテチを貪る音と共に鼻につくアドバイスが届く。
≪アルプなんて倒したところで、そんなにいい素材出てこないでしょう? 今回の皆さんの目的は5階層到達なんですから……≫
「うっせぇって言ってんでしょ! 仲間がやられて、このままでいられますか!?」
≪いちいち声でかいんですよ、下品だなぁ先輩は。他のパーティはとっくにゴールしているんですからね、付き合わされるこっちの身にもなってくださいよ。
そうそう、カトリー会長たちなんて、巨大な魔物を棺桶に封じ込めることに成功したんですよ! あんなカワイイ顔してるのに、ホントかっこいいですよねー≫
「……つぎ生徒会長を引き合いに出したら、許さねぇからな」
≪もー、先輩ってなんでカトリーさんの名前出したらキレるんですかー?≫
「いいから黙って見といてください! オレの召喚術で、イッパツで仕留めてやりますよ!」
シフトを魔法で倒したあと、ペンタグラムを恐れてこの場から去ろうとするアルプの背中をきっちりと捉えて、オレは太ももに縛り付けたホルダーから、魔導書を引き抜いた。
オレのジョブは
魔導書から、魔物や精霊、天使に悪魔などを召喚して使役する、すげーかっこいいヒーローなのだ。憧れの大英雄・ユニバーと同じように活躍できるのだ。
自慢の指ぬきグローブで、ぱらぱらと魔導書を繰る。
≪……ていうか、短剣持ってるんですよね? 変に召喚術なんか使うよりも、そっちで戦ったほうがずっと効率いいのに≫
「再三再四うるせぇ! 見てろよベル、すっげぇ精霊呼び出して、あっと言わせてやりますからね!」
最上級ランクの精霊、サラマンダーのページを開いて、オレは授業で教わった通りに構える。
天空にいる神に見えるよう、本の見開きを上に向けて持ち、もう片方の手は目標に向けて大きく広げる。人差し指と中指の間にアルプの姿を入れれば、準備完了だ。
あとは名前を呼ぶだけ……!
≪いや……まぁ、全滅しても先生の魔法で学校に強制送還させられるとは言ってもですね。だからってそんな、わざわざ自滅するようなことしなくても≫
ごちゃごちゃうるせぇ!
「来ぉいッ! サラマンダぁぁぁぁぁ!!」
≪サン先輩の召喚成功率って、1%切ってるじゃないですか≫
召喚によって現れたのは当然サラマンダーなどではなく、とてつもない熱ととてつもない風ととてつもない礫……。
ようは、魔導書が爆発した。
≪あっ≫
……そういう意味で、「あっと言わせる」って言ったんじゃねーから。
そんなどうでもいい思考と共に、オレの意識は途切れた。
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