第6話 花火大会

ピピー!ピピー!ピピー!ピッ––––––––。

5時にセットした目覚ましを止めた。

あぁ、眠い…。

俺は一旦一階の洗面所に行き顔を洗った。

さあ、花火大会だ!早く準備して家出なきゃ。

初めての異性と二人での花火大会…。

なんともいえない複雑な感情だ。

浴衣に着替え、家を出ようとした。

「流星っ!」

「あ〜?」

「今日を大切にね。」

母さんのその言葉は、妙に心に残った。

俺は軽くうなずき、家を出た。

自転車で駅まで向かう。今日2回目だ。

駅に着き電車を待つ。5時42分…、日がだんだん傾いてきている。

電車が来るとすぐに乗った。電車の窓から見える稲穂が夕暮れに照らされ、金色にキラキラ光っているように見える。次の駅に着くと浴衣を着た人達が乗って来た。今日はみんな花火大会に行くんだ。

その後も数人浴衣姿の人が乗って来た。

そして6時20分、北川駅に着いた。

集合場所のコンビニにはまだ彼女の姿はなかった。俺はベンチに座り彼女を待った。

数分後、彼女が来た。

「ごめんリューセー!待った?」

「いや、全然ってか6時半ぴったりだし。」

「本当だ!(笑)」

中村さんも浴衣姿だった。よかった。

「じゃあ、行こっか!」

「おう!」

俺たちは会場まで歩いた。駅から会場まで徒歩10分くらいだ。会場はいつもと同じで、大きな川のところ。その川の名前が北川。この町の名前の由来だ。

周りには浴衣姿の人がけっこういる。

「花火楽しみだね!」

中村さんはそう言った。

「うん、そうだね。俺、異性の人と二人で花火を見るのなんて初めてなんだ。」

俺がそう言うと中村さんは…

「私もだよ。だから、ちょっと緊張してるんだ!」

そう言い、笑った。

すごく、素敵な笑顔だと思った。

「俺も、緊張してる(笑)」

「じゃあ楽しもうね!」

「うん!」

「ちなみにリューセーはどんな花火が好き?」

「んー、あの、すだれみたいなやつかな。なんか垂れてくるやつ。」

「あーしだれ柳ね!あれは綺麗だよね!」

「しだれ柳っていうんだ。じゃあ中村さんは?」

「私はしだれ柳も好きだけどー、やっぱり彩色千輪菊かな。」

「なにそれ?」

「あの、小さい花火がたくさん一気に上がるやつだよ。」

「あーあれね。なんで?」

「なんていうか、小さくてもたくさん集まると、あんなに綺麗になるってところが、すごくいいな〜って。」

「あ〜、たしかにそうだね。今日よく見てみるよ!」

「うん!」

そんな話をしているといつの間にか会場に着いた。けっこう人がいる。いつもは全然人なんていない町なのに、花火大会ってだけでこんなにも人が集まるんだ。すごいことだ。

そんなことを思っていると、

「あれ?!リューセー!!」

「ほんとだ!リューセーじゃん!」

「なんだ来たのか!」

イッチー達だ。

「お、おう。」

「ま、そうだよな!せっかくの花火大会だもんな!来るに決まってるっ…て、その女の子誰だよ…!?リューセーお前まさか…。」

なんかめんどくさい事になったぞ。

「あー、いや別に、その…。」

「どうもっ!中村 葉月ですっ!」

「あ、ど、どうも。(どうも〜。)」

何かしこまってんだよこいつら。

つか、男だけで行くのはちょっと…みたいなこと言ってたくせにこいつら一緒に来てんじゃねーか!

「(おいリューセー!どーゆーことだよ!説明しろ!)」

イッチーが俺の耳元で言ってくる。俺も耳元に小声で言った。

「(これは違うんだ!たまたま見に行くことになったんだよ!)」

「(たまたまってなんだよ!ふざけんじゃねーぞ!)」

「(いや、別になんかあるわけじゃねーからよ!)」

「リューセー!そろそろ行こっ!」

イッチーと話していると中村さんが言ってきた。

「あ、おう、そうだな。」

俺たちはその場から逃げるように去る。

「(リューセー!このことは今後詳しく聞かせてもらうからな…)」

イッチー達の怒ったような顔を後にし、俺たちは屋台に向かった。色々な屋台が並んでいて、どれも美味しそうなものばかりだ。

「リューセーは何食べたい?」

「んー、焼きそばかな〜、お好み焼きも食べたいな〜。中村さんは?」

「私は〜、焼きそば!」

「じゃあ俺も焼きそばにしよっと!」

やっぱ焼きそばは定番なだけあって、結構並んでる。俺たちはその最後尾に並んだ。

数分後焼きそばを買い、そのまま花火を良く見れる場所を探した。

「どこにしようか?」

「んー、川沿いはよく見れるけど人がいっぱいいるからなぁ。」

「あっ!あの丘の上なんでどう?」

そう言って中村さんは指をさした。

「お、いいかも!行ってみよう!」

花火開始まであと3分。俺たちはその丘の上を目指して走った。片手で焼きそばをこぼさないようしっかり握りながら。

「間に合うかな?」

中村さんは少し不安そうに言った。

「大丈夫だよ!間に合う!」

浴衣はすんげえ走りづらい。何度か転びそうになった。

そしてやっと丘の上まで来た。


『ついたっ!!』


2人同時にそう言った途端、ピュ〜っと音を立てて花火が一つ、目の前で打ち上がった。火の玉は高くまでいき、一瞬消えた。


ドオォ〜ンッ!!


すごい音と共に大きな赤い花が咲いた。

その音は爆発音のようにあたりに響き渡る。それまでガヤガヤとしていた周囲の雑音は遮断され、目の前いっぱいに咲いた花に意識を奪われる。

あまりの美しさに漠然としてしまう。

綺麗だ。すごく、綺麗だ。


その後もどんどん花火が打ち上がる。

毎年見てきたけど、今年は一段とすごいような気がする。

ふと横を見ると中村さんは、目に涙を浮かべていた。

「ど、どうしたの?」

俺は聞いた。

「え?あ、いや、私、幸せ者だなって!」

中村さんは涙しながら笑った。

「花火、綺麗だね。」

「うん!!」


終盤に近づくとしだれ柳が打ち上がった。

「うおーやっぱあれが1番だなっ!」

「彩色千輪菊が1番だからっ!もう少ししたらきっと来るよ!」

「わかってるよ、それもしっかり見る!」

どんどん打ち上がる花火。俺たちは花火に夢中だった。時折、話をして、また花火に夢中になり、焼きそばも食べた。


時っていうのは過ぎてしまえば一瞬のように感じる。1時間に及ぶ花火も終わってしまえばあっという間の出来事だった。


「終わった、な。」

「終わった、ね。」

花火が終わると周囲のガヤガヤが戻ってくる。そしてただ終わってしまったという空虚な感じが残る。もう花火は打ち上がらない。

中村さんも同じような感じなのだろう。なにか話さなきゃ。

「最後の方のラストスパートみたいな勢いでめっちゃ打ち上がってて、あれすごかったわ。鳥肌立った。」

「そうだね!彩色千輪菊もいっぱい見れたし!大きなしだれ柳も打ち上がってたね!今年の花火大会、流星とこれて良かった。」

中村さんはそう言った。

「お、俺も中村さんとこれて、良かった。ありがとう。」

「こちらこそ。」

少し間が空いた。そして中村さんは言った。

「あのさ、この後時間あるかな?」

「このあと?別に平気だけど。」

「そう、じゃあ私行きたい所があるんだ。流星と。」

「行きたい所?いいけど…。」

いったいこれからどこへ行きたいというのだろう。全く予想がつかなかった。

「じゃあ行こう!」

中村さんは立ち上がり、歩き始めた。俺もその後ろをついて行った。

「どこに行くの?」

「着いてからのお楽しみ〜!」

後ろ姿からでも、笑っているのがわかった。










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夏夢 @utajapan

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